『子猫をお願い』が描いた、周辺の物語
猫と女性、仁川と在韓華僑
映画『子猫をお願い』は2001年10月に公開された韓国映画だ。監督はチョン・ジェウン、主演はペ・ドゥナ。公開から20年目にあたる昨年には、韓国でデジタル・リマスター版も作られ、話題再燃となった。
日本では第一次韓流ブームの真っ只中である2004年に劇場公開された。主演のペ・ドゥナ人気もさることながら、子猫というタイトルに惹かれてレンタルビデオで見たという人も結構いた。
「子猫の映画かと思って軽い気持ちで見たら、びっくり。すごい映画だった。ところで、よくわからなかったのはラストの……」
当時、日本の友人たちとやりとりしたのを覚えている。また最近になってからは、フェミニズム的な視点でこの「女性監督による女性群像劇」に注目する人も多く、論文なども数多く書かれている。たしかに映画の中の家族関係などは、『82年生まれ、キム・ジヨン』と重なるし、特にペ・ドゥナの「お父さん、殴るだけが暴力じゃない」というセリフは突き刺さる。その意味では、すでに語られ尽くされた映画で、何を今更感もあるのだが、少しだけ付け加えておきたいことがある。
映画は「周辺の物語」と言われているが、そのさらに周辺の話だ。当時の韓国で不人気だった猫のこと、そして当時の仁川と在韓華僑のことだ。
実はこの映画が製作されたのは、完成間近の新空港や在韓華僑の取材などで私自身も仁川に通っていた時期だった。IMF危機の影響で予定通りの開港が危ぶまれていた仁川国際空港。デートスポットで知られる月見島のプロムナードに集められた労働者は、漁船に乗って対岸の永宗島にある空港建設現場に通っていた。
映画の中ではバスで空港に通う様子が出てくるので、あれは2000年12月に橋が完成した後に撮影されたのだと思う。開港は2001年3月であり、監督は「ぎりぎりで映画に間に合った」と言っている。映画のラストシーンは仁川空港だ。
また映画では華僑の双子姉妹であるピリュとオンジョについて余り語られていないが、韓国の華僑の歴史は日本などともかなり違うので、それについても書いておきたいと思う。
まずは前半に猫と女性の話を、後半は仁川と華僑の話である。
プロフィール
ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)好評発売中。