昨年2018年12月に刊行された『安倍政治 100のファクトチェック』は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組み、日本の政治を対象に、何がフェイクなのかを明らかにした本格的ファクトチェック本。
刊行前後から今にいたるまでも政権与党の周囲では検証されるべき発言が相次いでいるため、ここに連載として最新のファクトチェックをお届けします。本書と合わせて日本政治の今を考える一助としていただければ幸いです。
【ファクトチェック】首相、閣僚、与野党議員、官僚らが国会などで行った発言について、各種資料から事実関係を確認し、正しいかどうかを評価するもの。トランプ政権下の米国メディアで盛んになった、ジャーナリズムの新しい手法。
Check 2 安倍晋三首相(2019年1月6日のNHK「日曜討論」)
――NHKが各党の党首らを招き「政治はどう動く」と特集。安倍晋三首相については、事前に収録した発言が紹介され、沖縄の米軍辺野古新基地での土砂投入について問われ、安倍首相がこう説明した。
「土砂を投入していくに当たってですね、あそこのサンゴについては、移しております。また、絶滅危惧種が砂浜に存在していたんですが、これは砂をさらってですね、これもしっかりと別の浜に移していくという、環境の負担をなるべく抑える努力もしながら行っているということであります」
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2019年1月6日時点での辺野古埋め立て海域でのサンゴの移植は全く行われていなかった。
発言翌々日の1月8日に沖縄県の地元紙の琉球新報は、名護市辺野古での米軍新基地建設のための埋め立てで、土砂が投入されている辺野古側の海域「埋め立て区域2―1」からサンゴは移植していなかったとし、首相は「事実を誤認して発言した」と厳しく批判した。
実際、埋め立て海域全体では、移植の対象となる1メートル以上のサンゴは約7万4000群体だったが、この時点で県が採捕の許可を与え、移植を終えていたのは、別海域にあるオキナワハマサンゴ9群体のみにとどまっていた。
沖縄防衛局は、土砂投入の海域近くの準絶滅危惧種である、ヒメサンゴ1群体を移植する方針だったが、県から採捕許可が得られなかったため、特別な装置を使ってサンゴを囲み、移植をせずに、工法を変更していた。
安倍首相は「砂浜の絶滅危惧種は砂をさらって別の浜に移す」とも発言したが、沖縄防衛局の事業で、貝類や甲殻類を手で採捕して移す事業はあるが、「砂をさらって」別の浜に移す事業は実施していなかった。
日曜討論の番組直後から、ツイッターなどでは、「え!?サンゴって全部移してたっけ?」など首相の発言を疑問視する声が相次ぎ、翌日7日、玉城デニー沖縄県知事が、他のユーザーの投稿に返信する形で、「安倍総理…。それは誰からのレクチャーでしょうか。現実はそうなっておりません。だから私たちは問題を提起しているのです。」と疑問を投げかけていた。
安倍首相はその後、1月30日の衆院本会議で「南側の埋め立て海域に生息している保護対象のサンゴは移植した」と言い換え、土砂投入中の海域のサンゴは移していないことを認め、事実上、発言を修正した。(望月)
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昨年2018年12月に刊行された『安倍政治 100のファクトチェック』は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組み、日本の政治を対象に、何が「嘘」で、何がフェイクなのかを明らかにした本格的ファクトチェック本。 刊行前後から今にいたるまでも政権与党の周囲では検証されるべき発言が相次いでいるため、ここに連載として最新のファクトチェックをお届け。本書と合わせて日本政治の今を考える一助としていただければ幸いです。
プロフィール
南 彰(みなみ・あきら)
1979年生まれ。2008年から朝日新聞東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。政治家らの発言のファクトチェックに取り組む。2018年秋より新聞労連に出向し、中央執行委員長をつとめる。 著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったか』(朝日新書)
望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年生まれ。東京新聞社会部記者。2017年、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞。著書に『新聞記者』(角川新書)等。共著にマーティン・ファクラー氏との『権力と新聞の大問題』(集英社新書)、前川喜平氏、マーティン・ファクラー氏との『同調圧力』(角川新書)等がある。『新聞記者』を原案とした映画「新聞記者」も全国劇場で大ヒット公開中。https://shimbunkisha.jp/