昨年2018年12月に刊行された『安倍政治 100のファクトチェック』は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組み、日本の政治を対象に、何がフェイクなのかを明らかにした本格的ファクトチェック本。
刊行前後から今にいたるまでも政権与党の周囲では検証されるべき発言が相次いでいるため、ここに連載として最新のファクトチェックをお届けします。本書と合わせて日本政治の今を考える一助としていただければ幸いです。
【ファクトチェック】首相、閣僚、与野党議員、官僚らが国会などで行った発言について、各種資料から事実関係を確認し、正しいかどうかを評価するもの。トランプ政権下の米国メディアで盛んになった、ジャーナリズムの新しい手法。
Check 3
茂木敏充経済再生担当相(2019年1月29日の記者会見)
「景気回復の長さについてであります。2012年12月、我々が政権復帰をしたときに始まりました今回の景気回復期間は、今月で74か月、6年と2か月となり、戦後最長になったとみられます」
安倍晋三首相(2019年1月30日の衆院本会議)
「安倍政権の発足以来続く今の景気回復期は、今月で74カ月となり、戦後最長となった可能性が高くなっています」
麻生太郎副総理(2019年3月7日の参院財政金融委員会)
「日本経済につきましては、企業部門の改善が家計部門に広がり、好循環が進展する中で、今回の景気回復期間は本年一月時点で戦後最長になったと見られ、緩やかな回復を続けております」
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安倍晋三首相ら 国内経済、「後退」が始まっていた可能性を示すデータ
安倍政権は2019年1月29日、国内経済の基調判断を「緩やかに回復している」とする月例経済報告を発表。それに基づいて、12年12月に始まった景気拡大の長さが6年2カ月になり、「戦後最長になったとみられる」との見解を示した。従来の戦後最長は、リーマン・ショックのあった08年まで6年1カ月続いた「いざなみ景気」だった。
茂木敏充経済再生担当相は同日の記者会見で、先行きについても「雇用所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって緩やかな回復が続くことが期待される」と語った。
しかし、内閣府が19年3月7日に発表した同年1月の景気動向指数(速報値)では、景気の現状を示す一致指数が前月より2・7ポイント低い97・9。3カ月連続の悪化で、5年7カ月ぶりの低い水準となり、内閣府は景気動向指数の基調判断を「足踏み」から「下方への局面変化」に引き下げた。1月より数カ月前には「景気の山」を迎え、すでに後退が始まっていた可能性が高いことを示すものだった。
その後も政権幹部は「戦後最長」の主張を崩さなかったが、与党内からも「少なくとも現下の経済状況は予断を許さない大切な局面に差しかかっているのではないか」(公明党の杉久武参院議員)と疑問視する声が上がった。さらに、内閣府は5月13日、3月の景気動向指数(速報値)の基調判断を6年2カ月ぶりに最も厳しい「悪化」に引き下げた。
そもそも景気の拡大期に関する正式な判断は、時間が経たないと正確にできないため、内閣府の有識者による研究会が少なくとも1年ほど後までのデータも分析したうえで行うものだ。現時点での「戦後最長」の主張は一方的で、アベノミクスに関する印象操作の危険をはらんでいる。(南)
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昨年2018年12月に刊行された『安倍政治 100のファクトチェック』は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組み、日本の政治を対象に、何が「嘘」で、何がフェイクなのかを明らかにした本格的ファクトチェック本。 刊行前後から今にいたるまでも政権与党の周囲では検証されるべき発言が相次いでいるため、ここに連載として最新のファクトチェックをお届け。本書と合わせて日本政治の今を考える一助としていただければ幸いです。
プロフィール
南 彰(みなみ・あきら)
1979年生まれ。2008年から朝日新聞東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。政治家らの発言のファクトチェックに取り組む。2018年秋より新聞労連に出向し、中央執行委員長をつとめる。 著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったか』(朝日新書)
望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年生まれ。東京新聞社会部記者。2017年、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞。著書に『新聞記者』(角川新書)等。共著にマーティン・ファクラー氏との『権力と新聞の大問題』(集英社新書)、前川喜平氏、マーティン・ファクラー氏との『同調圧力』(角川新書)等がある。『新聞記者』を原案とした映画「新聞記者」も全国劇場で大ヒット公開中。https://shimbunkisha.jp/