日米の支配・従属関係の根源を撃つ! 第3回

日米の支配・従属関係の根源を撃つ!

伊勢﨑賢治×松竹伸幸

自衛官が海外で事故や事件を起こしても
裁く法律がない

伊勢﨑 先日、防衛大の教員を含む研究者のチームから、「在外邦人の保護救出」に関連してヒアリングの依頼がありました。安保法制の中で新設された自衛隊法84条3の3で、いろいろな要件がありますが、外国で在留邦人の保護のために武器使用ができるようになった。これの現実性はどうか、僕の意見を聞きたいと。

 新設された条項では、救出活動の要件として、まず現地政府の同意。その現場に現地警察などが既に警備に当たっていること。そして、これは冗談かとズッコケそうになるのですが、戦闘行為が行われる可能性がなく、自衛隊部隊と現地警察などの当局と連携協力が確保されることとある。これ、武器をもって救出にあたるけど、戦闘が起きそうになったら、邦人を見捨てて現地警察にバトンタッチ、ってことですか(笑)。

 普通、アメリカなど先進国も、同じような状況では、必ず現地政府と同意をするのですね。どんな緊急の場合でも、“簡易地位協定”のような同意を。中身は、現場に現地の警察などがいることを想定して、まず異邦人として武器を持ち込み携帯する許可と、それを使用して、もし事故になった時、現地警察とトラブルにならないよう、現地政府に裁判権を放棄してもらう同意です。当たり前でしょ? これがなかったら、異国で安心して救出活動なんて、できるわけがない。同時に、もうひとつの当たり前は、なぜ現地政府に裁判権を放棄してもらえるかというと、それは、こちら側が責任を持って裁くから、です。

 日本の場合、安保法制では、自衛隊に武器を持って出かけろ、と。でも、国家の責任としては、そこまで。新設自衛隊法は、戦闘がある状況から逃げている。つまり、これはどういうことかというと、止むを得ず戦闘が起き、武器を使うハメになったら、それは自衛官の自己責任ということです! 5人の研究者からなるこのチームは、安保法制を支持している雰囲気を感じたのですが、僕はちょっとキレました(笑)。

 更に、武器使用がもたらす事犯の責任を、自衛官個人に被せるとしても、それは業務上過失なのか、それとも単なる故意の殺人なのか。日本には「国外犯規定」の問題があります。このチームの先生方は、この問題を認識していないようで、僕はマジにキレました。何が邦人救出ですか! 異国でバンバン撃ちまくるハリウッド映画の見過ぎじゃないか、まったく。

 

松竹 そうですね。国外犯規定とはどういうことかというと、今、自衛隊がジブチの基地に部隊として駐留している他に、いろんなところにPKOの司令部要員などが行っています。そこで、たとえば車両を運転していて、現地の人を事故で殺してしまったら、業務上過失致死ですよね。日本でそういうことがあれば、過失であれ、裁かれる。ところが国外犯を裁くことは、日本の刑法の体系に入っていない。日本では裁く法律はないんです。自衛隊の場合、ジブチでも他でも、過失致死などがあっても「現地では裁きません、日本側が裁きます」という地位協定を結んでいる。しかし結果として現地でも裁かれないし、日本に戻ってきても、日本には刑法にそういう体系がないので裁けない。それが問題なんです。

 それを伊勢﨑さんが早い時期に問題提起して、今度の国際刑事法典の中にも入っているんですけれども、それを防衛省も河野太郎防衛大臣の時に気づいて、やり始めている。

伊勢崎 でも政府側がこれを推し進めてしまうと、現在やっている自衛隊の海外駐留を固定化することになる。もちろん、自衛官個人がおかす過失に、国家として日本が責任をもって法的に管轄できるようになることは、良いことに決まっています。しかし、与党に任せたら、それだけで終わってしまうと思う。肝心のジュネーブ諸条約やローマ規程への法整備、特に「上官」を起訴・量刑の起点にできない日本の法体系の根本的な問題が、放置される可能性があります。今や、国際司法の判例で責任を問われる「上官」は、軍隊の指揮官というより、政治家ですからね。今の与党が進んでやるとは思えない。

松竹 政府主導でやると「自衛隊員が何か事件を起こしても、ちゃんと裁く法体系がありますから、胸を張って堂々と海外に行けますよ」みたいな言い方をされる可能性があるわけですね。

伊勢﨑 そうです。だからこそ野党側から「そういう法律を作ろう」と提起して、「でも法律を作るには時間がかかるし、事件は今この瞬間に起きる可能性がある。まずはひとり残らず帰還させて、それから法体系の根本的な改革のためにじっくり腰を落ち着けて国民的議論を」と言うべきなんです。

松竹 そういう思いで伊勢﨑さんは提案しているんですが、なかなかそれが伝わらない。そういうことに日本の野党が気づき、日弁連をはじめ法曹界が気づけば、この問題で、リードできると思うんですけど。

伊勢﨑 でもそういう意見は無視されていますね。「そもそも自衛隊を出すのが悪い」という話にすり替わってしまう。でも、もう自衛隊は出ちゃっているわけですよね。護憲派の議員が中枢にいた旧民主党政権の時から。そして、これは何度言っても、法曹界は都合よくスルーし自衛隊だけの問題にしようとするのですが、上述のようにジュネーブ諸条約やローマ規程が、事犯を引き起こす主体として想定するのは、もはや国家の正規軍だけではない、ということ。つまり自衛隊をどう呼ぶかは問題にしない。さらに、それらの国際法の管轄には、海外派遣の現場と日本国内の区別がないこと。

松竹 いや、日弁連も捨てたものではなくて、そういう動きは皆無ではないようです。

 

戦争犯罪は命令した者の罪が重いが
自衛隊では命令を遂行した隊員の罪が重くなる

伊勢﨑 そして、これは自衛官個人の人権問題でもあります。自衛隊法と刑法は、たとえて言うと「任侠の親分と鉄砲玉」。親分が命令するけど、臭い飯を食うのは鉄砲玉の子分。

 国際正義で定着しているのは、戦争犯罪という、個人犯罪を超えた組織犯罪では、起訴と量刑の起点となるのは「上官」です。それが今や、人道に対する犯罪、ジェノサイドとして、軍隊のそれだけに制限されない。旧ユーゴ、ルワンダ、シエラレオネなどの国際戦犯法廷で裁かれているのは、軍人だけじゃない。それを煽り、資金を調達した政治家とか、メディア会社の社長とか、そういう人たちが一番厳しい量刑を受けている。「鉄砲玉」は恩赦されることが多い。しかし自衛隊では、このベクトルが真逆なわけです。

―今の自衛隊の場合は、実行した隊員ばかりが裁かれてしまう、と?

伊勢﨑 ええ。逆に、上官の命令に背いた時の抗命罪だけある。安倍政権の安保法制で、懲役年数が引き上げられたのです。上述の在外邦人保護救出も安保法制で新設されたのですが、自衛官に、武器を持ってもっと危険な任務をやれ。何か起きたら自己責任ね、日本政府はそんなことは想定していないのだから。でも命令に背いたら懲役刑ね。こういうことです。もう、日本という国のカタチが冗談であるとしか言えませんが、個々の自衛官にとっては、それでは済まされない。明確な、国家による人権の侵害です。

 この人権侵害には、もうひとつの側面があります。そういうふうに国家によって人権を侵害された自衛官が現地に赴き、彼らが面と向かう一般の「民衆」の側から見た問題です。撃った後を国家として法治できない無法の軍事組織が向き合う無辜(むこ)の民(たみ)の立場に立って考えるということです。ジブチのように、地位協定によって、日本は現地社会に裁判権を放棄させているのです。日本人、特にリベラル勢力は、これがとてつもなく深刻な問題であることが、なぜ分からないのでしょうか? 日米地位協定で被害者の立場でもある日本人が……。

 この本で松竹さんは、日本で事故を起こした米兵が軍法会議にかけられないケースが多いと指摘されていますよね。でも、それは結果論です。結果的に起訴にいたらなくても、その事犯を管轄し、起訴するかしないかを審議する法体系が、アメリカに限らず、ふつうの国ならちゃんとある。日本は、それが空白なのです。

松竹 その点でいうと、上官命令をどう位置づけるかというのは、キーポイントになると思いますね。上官命令で自衛官が行動した結果、人が死んだりするということは、海外じゃなくても起こり得ることです。だから日弁連にしても野党にしても、これは今すぐ取り組むべきじゃないかと。

 日本の刑法体系というのは実行犯を正犯として、命令を出した人間がいたとしても共犯、共謀共同正犯という程度の扱いで、実行犯が主体で、命令した者はせいぜい共犯関係で、首謀者としては扱われません。

 しかし伊勢﨑さんが言ったように、軍隊は全くそれとは違って「命令した人間が一番罪深い」と。自衛隊というのはそういう組織なのに「軍隊じゃないから」ということで、一般刑法で扱われる。そこは非常に大きな矛盾です。

 海外派兵に反対する野党や弁護士も、現状は少なくとも専守防衛でやっていくしかない、と認めているところはある。専守防衛の場合も、上官命令で自衛隊は動くのですから、この法の空白は放置できないはずです。

 

バイデン大統領になって自衛隊がアフガニスタンに派遣される可能性も?  

伊勢﨑 僕は、防衛省の統合幕僚学校の他に、「国連の平和作戦と日本」をテーマに防衛研の教育部でも教えていて、自衛官、特に陸上自衛隊に、今の日本の法体系下では、もう「部隊派遣」は無理だという認識が確実にできているということを実感します。日報の隠蔽事件があり、撤退した南スーダンのジュバ危機以降ですね。ですから、日本の人道援助NGOを駆け付け警護するんだと鳴り物入りの安保法制でしたが、安倍政権以降、自衛隊の部隊派遣は、逆にゼロでしょ? 国連PKOには、地位協定が必ずありますから、この問題を考えても、もう現実は無理。ジュバ危機は、寡黙な自衛隊にとって最大の教訓になっています。でも、「政治」は違う。

 このままでは、せっかく安保法制をつくった意味がありませんからね。与党は、何とか昔のように1部隊ぐらいは出せるようにするにはどうしたらいいか、虎視眈々と考えているはずです。一番簡単なのは国外犯規定ですね。刑法を少しいじって、海外での自衛隊員個人の業務上過失を管轄できるようにする。

松竹 そういう現実的な危険はありますね。そこで日本の法整備が進んでいって、アメリカ大統領がトランプからバイデンになって、「アフガニスタンをどうするか?」となった時に、「NATO加盟国はみんな派兵して傷を負ったから、今度は日本が行ってくれよ」という話にもなりかねない。

伊勢﨑 ですね。アメリカが民主党政権に戻って、ちょっとまた心配です。もちろんトランプ大統領も武器産業や民間軍事会社を大いに活気づけ、非常に問題でしたけど、任期中に始めた「新しい軍事作戦」が、ここのところの大統領では、最も少なく、前任者から引き継いだ戦争、特にアフガニスタンからは、タリバンとの政治和解を含め、着実に駐留米軍の撤退を推し進めたのですから。現在、2001年9.11から既に20年、アメリカ建国史上最長の戦争の戦場になったこの国で、今年初めて、NATO軍が米軍の数を上回った。これは、9.11後、初めてのことです。

 ただ、タリバンとの和平合意にもかかわらず治安情勢と国内政治は混乱したまま。トランプが公言していたような米軍の「全撤退」は、残念ながら、まだ先のことでしょう。NATO軍と共に、アフガン国軍と警察を支援しながらの戦いは、継続すると思います。NATOも既に疲れ切っていますので、準同盟国扱いの日本に「もっと金を出せ」というような要求は、絶対あるでしょうね。

松竹 ですよね。

伊勢﨑 アメリカが、またポリティカル・コレクトネスを旗頭に、世界の警察官として、より好戦的になっていくのは心配です。

―バイデン政権のほうがトランプ政権よりも、戦争に向かっていく可能性が高い?

伊勢﨑 トランプ政権は、4年間の任期中、前政権から引きずったもの以外で、新しく始めた軍事作戦は4つだけ。2017年アサド政権による化学兵器使用の疑惑で安保理決議なしでやったシリア空爆や、2020年在イラク米大使館攻撃に即応してイラン革命防衛隊ソレイマニ将軍をイラク政府の許可なしにイラク国内で殺害した空爆のように、とんでもない国際法規違反をやりましたが、4つしかないんです。オバマ政権は21。その前のブッシュ政権は15。クリントン政権は25。トランプは朝鮮半島を含めて、確実に駐留米軍を減らしました。一方で、ドローンやミサイル攻撃、そして現地の友軍に武器を売るなど、兵器産業を喜ばせることは、どんどん推進しましたけど(苦笑)。

―なるほど。確かに、日本のいわゆるリベラルの人は、割とアメリカの民主党政権のほうを共和党より支持する人が多いような気もするんですが。

伊勢﨑 原爆を落としたのはどっちか、皆、忘れてますね。

 ブルームバーグが2年前にあるトランプの発言をすっぱ抜いたのです。その後、星条旗新聞も取り上げた事実なんですが、これが日本では全然話題にならない。どんな報道かというと、辺野古問題でトランプがとんでもないことを言ったんです( https://www.bloombergquint.com/politics/trump-muses-privately-about-ending-postwar-japan-defense-pact )。

 辺野古は普天間基地の代替ですよね。普天間からリロケーション、移転する。この普天間からの移転をトランプは「ランド・グラブ」という表現を使ったんです。日本政府による土地収奪。日本政府がそんなに言うのだったら、考えてやってもいいよ。でもね、普天間基地の時価は一兆円ぐらいだし、アメリカ政府は日本政府に土地を収奪されるんだから、それなりの補償を支払ってもらわなきゃならない、と。

 トランプは、在日米軍基地のことを、本当に「自分らの財産」だと思っていたんですね。でも、これは国際法に反しますからね。戦争の結果、軍事占領はできても、それでもって軍事併合、つまり、自分たちのものにしてはいけない。「侵略」になってしまいますからね。日米地位協定の他国にはない異常を見ると、実際、まさに軍事併合状態なのですが、たとえそうであっても、公言はできない。国際法違反ですから。

 でも、それがトランプなんですね。国際法なんて、気にせず、こういう本音を言ってしまう。だからこそ、この大統領は、逆に日本にとっては好機だと思いました。

 トランプは、ボルトンの回顧録でも書かれていますね。松竹さんの本にも書いてある。トランプが「8500億円出せ」と言った、と。在日駐留経費を対等に負担しろ、ということですね。トランプは就任当時、同じことをNATOにも言いました。「対等reciprocal(レシプロカル)に経費を負担しろ」と。

 今日の対談の最初の方で議論した、NATOを始め他の同盟国では既に標準となっている、地位協定における「法的な対等性」が、このレシプロカルです。だから、これを逆手にとればいい。「経費面をレシプロカルにすることを考えてもいいけど、それはまず地位協定をレシプロカルにしてからだな」、と言えばいいのです。

 レシプロカルとは、同じ権利をお互い認め合う、ということです。つまり、自分が相手にしてもらいたくないことは、自分も相手に対してできない、ということです。アメリカ本土に相手国の軍が駐留しても、絶対に自由にさせないはずです。させても、それは全てアメリカ政府の許可の下のはずですから、相手国の本土では、アメリカ軍も自ずとそのように振る舞う。地位協定がレシプロカルになれば、「横田空域」なんて、一瞬にして消滅するのです。

 経費負担の交渉は、地位協定をレシプロカルにしてから。こんな丁々発止の交渉が、トランプとならできたでしょうに。残念です。トランプを悪者にするだけで、日本のリベラルは気が済んでしまっているみたいですけど……。

 

松竹 そうですね。というか、本当に「正直な」大統領でしたよね。分かりやすかった。善悪は別にしてトランプさんの下では、変化を期待できた面はありますね。バイデンさんの下では、じわりじわり、日米同盟強化みたいな枠内でやってくるし、日本政府の側も同じく日米同盟強化で響き合って……ラジカルな変化をもたらすのは、政府の側からじゃ、なかなか難しい局面に入っていますね。

 でも、だからこそ、伊勢﨑さんのラジカルさが必要なんじゃないですか。

伊勢﨑 松竹さんの今回の本でも、僕の本でも、国際比較からも絶対おかしいって、学問的には誰も反証できない証拠を示しているわけですよね。

 だけど「それは分かっているんだけども、アメリカは大事だ」という話になってきちゃう。「中国もおるし、北朝鮮も物騒だし、やっぱりアメリカに頼るしかない。逆に、このぐらいのお金、8500億円あげても、米兵を傭兵として雇っていると考えればいいじゃないか」みたいなことを言う人もいる。そこをどうするかですよね。僕は、もう結構お手上げですね。

松竹 いやいや、伊勢﨑さんは、もう打つ手なしと言うけど、こういうことに関わり始めたのは日本で10年ちょっと。私なんか学生の時からですから、半世紀やってきたけど変わらないという現実があって。

 だから、先が見えないといえば見えないけども、少なくとも、自衛隊を活かす会は7年前からで、国際刑事法典のほうはまだ出発したばかりなので、「打つ手がない」って言うのは、まだ早いんじゃないですか。

 この問題を実際に提起して、日弁連なりとまだ正式に話合いも持っていないわけですからね。私は何らかのものは当然起こり得ると思って続けています。伊勢﨑さんみたいに暴れていないから、疲れてもいないだけかもしれませんが(笑)。

伊勢﨑 別に、暴れていませんけどね(苦笑)。

 

イラクとアメリカの地位協定も
日米地位協定と全然違う

伊勢﨑 在京のイラク大使館の高官が、僕の所で博士論文を書いているのです。イラク政府の人間である彼も、イラク戦争には「アメリカの侵略(インベージョン)」という言葉を使います。日米関係とイラクのそれを軍事駐留という観点から比較する試みが、論文のひとつの章になるんですけど、彼の反応が面白いのです。

 2回目の交渉では決裂したのですけど、2009年に結ばれた最初のイラクとアメリカの地位協定は、まずその序文からして違いますから。イラク政府の「主権(ソブレンティー)」が高らかにリスペクトされている。そんな言葉は、日米地位協定では、どこにも出てこない。

 論文指導のある日、「僕がイラクの地位協定で一番好きな条項はここなんだよ」って、彼に言ったんです。「イラクで米軍が使用している空域、基地、水域を、アメリカは他国の攻撃を目的に使ってはいけない。通過をしてもいけない(同27条の3)」と書いてある。ここが、僕が日本人として非常に羨ましい、と言ったら、彼から「なんで? 当たり前でしょ。米軍に攻撃されて怒った国から真っ先に報復攻撃されるのはイラクだし」って(苦笑)。

松竹 日米地位協定は、受入国側の日本の視点じゃなくて、「アメリカの権利」が書かれているものですから。そこが出発点なので、本当に全然違いますよね。これをもとに70年間かけて積み上げられてきたのが現状ですから、打ち破るのは、そう簡単じゃないと思いますよ、本当に。そこを、「地位協定は日本の主権と国民の人権を担保するものだ」と変えていかなければならない。

 

伊勢﨑 ひと押しで、ガラッと変わるような気がするんですけど、ここをちょこっと押せば、日本人の意識がパッと変わる。……それは、僕は9条だと思う。自らの軍事を直視しない9条。それが変わらない限り、アメリカの軍事を対等に見ることができない。その関係の異常さに、日本人は気づかない。そこが松竹さんと僕の違いですね(笑)。

松竹 そこはね。伊勢﨑さんがそういう問題を提起するのは、全然かまわないと思います。国際刑事法典の会に関係している人の間でも、憲法問題についての意見は全然、違ったりしますからね(笑)。

 

*1 1972年8月、ベトナム戦争で破損した米軍戦車を相模原市の施設で修理し、再び戦地で使うため、横浜ノースドックへと輸送する戦車積載トレーラーの列を、反戦市民らが横浜市道の村雨橋の手前で約100日間にわたり足止めした。当時の横浜市長も、この闘争を支援。

*2 ジブチ共和国の首都ジブチには、ソマリア沖・アデン湾での海賊被害に対応するため、2011年7月から自衛隊が駐留している。自衛隊初の恒久的海外基地。

*3 戦場からヘイトクライムまで、「紛争」から弱者守れぬ「法の空白」埋めよ – 藤田直央|論座 – 朝日新聞社の言論サイト (asahi.com)

 

 

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関連書籍

〈全条項分析〉日米地位協定の真実

プロフィール

伊勢﨑賢治×松竹伸幸

 

 

伊勢﨑賢治(いせざき・けんじ)
1957年、東京都生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。インド留学中、スラム住民の居住権運動にかかわり、国際NGOでアフリカの開発援助に従事。2000年より国連PKO幹部として、東ティモールで暫定行政府県知事、2001年よりシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長を歴任。2003年からは、日本政府特別顧問としてアフガニスタンの武装解除を担う。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、共著に『新・日米安保論』(集英社新書)、『主権なき平和国家』(集英社クリエイティブ)など多数。

 

松竹伸幸(まつたけ・のぶゆき)
1955年長崎県生まれ。 ジャーナリスト・編集者、日本平和学会会員、自衛隊を活かす会(代表・柳澤協二)事務局長。専門は外交・安全保障。一橋大学社会学部卒業。『改憲的護憲論』(集英社新書)、『9条が世界を変える』『「日本会議」史観の乗り越え方』(かもがわ出版)、『反戦の世界史』『「基地国家・日本」の形成と展開』(新日本出版社)、『憲法九条の軍事戦略』『集団的自衛権の深層』『対米従属の謎』(平凡社新書)など著作多数。

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