「母子家庭」という言葉に、あなたはどんなイメージを持つだろうか。「女手ひとつで大変そう」「お母さんが働いているあいだ、子どもはどうするの?」「家族観も多様化しているのだから、立派な生き方だと思う」……。
古典的なものも、あるいは比較的おおらかな考え方も、イメージは様々だろう。しかしながら、シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は必ずしも多くないのではないか。
本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。
「息子、お正月に帰ってきたけど、たったの2泊で帰っちゃった。もう、しょうがない」
東京近郊に住む、森田葉子さん(仮名、48歳)は何かを突き放したように笑う。
去年、26歳で結婚した一人息子のことだ。元旦に帰省したが、さっさと自宅に戻って行ったと言う。楽しみにしていただけに、葉子さんは拍子抜けしたような気分だ。
「やっぱり、彼にとっては、自分が作った家庭が一番落ち着くのだと思う。もう、うちじゃなくてね」
葉子さんは自分に確認するように、言葉をつなぐ。一人暮らしの寂しさはあるが、これまでシングルマザーとして生きてきた中で、今が最も経済的に平穏な日々を送っていることを実感する。それだけは、本当にありがたいことだと心から思う。
公営住宅で、一人暮らしをしている葉子さん。仕事は、宅配便のドライバーだ。パートだが、25年以上の勤務実績を持つ。
息子は4年前に理工系の大学を卒業し、正社員としての就職が決まった。長かった子育てが終わった頃から、微々たるものであっても、葉子さんは「自分の老後のために」、ようやく貯蓄ができるようになったと言う。
「だって、(老後には)何もないから」
葉子さんには親やきょうだいなど、頼れる身内は誰もいない。老後はたった一人で生きて行くことを覚悟している。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。