シングルマザー、その後 第3回

貧困の連鎖を断ち切るために

黒川祥子
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 小学5年生の時に、事故で父を亡くした葉子さん。そして、15歳の時には母を病気で喪ってしまう。

 年の離れた姉が三人いるが、それぞれが自分の生活のことで精一杯、葉子さんの面倒を見る余裕はない。

 葉子さんは中学卒業と同時に、住み込みで働くことができる美容院に就職した。一人で食べて行く道は、それ以外になかったからだ。

「全然、やりたい仕事じゃなかった。むしろ、嫌いな仕事だった。髪を触るのがいやで……。女性の職場だというのも苦手だし、おまけに先輩たちはすごく意地悪だった」

 アパートを借りることができるお金を貯め、葉子さんは仕事を辞めた。18歳の時だ。その後は、飲食店で接客のアルバイトを行う。そのバイト先で知り合ったのが、元夫だった。3歳年上の彼とは、なぜか、話が合った。

 20歳で結婚し、22歳で長男が生まれた。結婚後、二人は飲食店のバイトを辞め、宅配便で働くことにした。夫は正社員として長距離運転をこなし、葉子さんはパートとして昼間の勤務に就いた。「車の運転が好きで、宅配便の仕事は楽しかった」と葉子さん。

 生後3ヶ月から息子を保育園に預けて、葉子さんは出産後すぐに、宅配便の仕事を再開した。共働きでないと、生活が厳しいからだ。

半年間、会話のなかった夫婦

 いつしか、葉子さんは夫に対して、どうしようもない違和感や嫌悪感を抱くようになった。

「私は結婚したのだから、ダンナと私が作る家庭を大事にしたいと思っていた。でも、ダンナは違っていて、実家を含んだのが家庭だった。実家をすごく大事にしていた。そこが、私とは違うと思った……」

 義母からしょっちゅう、電話がかかってくるのも負担だった。

「いずれ、同居するというのが前提となっていたのも、今にして思えばいやだったんだよね。同居して、介護するんだろうなーと漠然と思っていたけど、いやだった」

Anutr Yossundara / PIXTA(ピクスタ)

 

 いつからか、夫にもっと強い拒否感を持つようになった。顔も見たくないし、話もしたくないと強烈に思った。多分、息子が小学1年か、2年の時だ。

「私、誰に対しても、一回、そう思っちゃうとダメなんだよね。この人、いやだな、顔も見たくないってなると、もうどうしようもない。ダンナに対して、そうなっちゃった」

 夫は夜間勤務ゆえ、すれ違いの生活も原因にはあったと思う。何より決定的だったのは夫が仕事を辞め、借金をするようになったことだ。

「仕事を辞めたのは、別にいいの。でも、その後なんだよね。なんか、人任せで動かない。そして、借金まで作っている。これを知った時、もうダメだと思った」

 半年間、自分と一言も話をしない妻を不審に思った夫は、自身の友人を入れて妻との話し合いの場を持った。半年ほど話し合いを続け、二人は協議離婚の道を選んだ。

「離婚を決めてから、姉を入れて話し合いをしたんだけど、私、養育費は別にいいかな、要らないなと思った。向こうにしても、私のわがままが原因での離婚と捉えていたし。ただ、姉が『子どもが大きくなった時に、助けてほしい』と懇願して、彼はその時のために、お金は貯めておくと言った」

 こうして離婚が成立したのだが、葉子さんは結果として1年、元夫とアパートで同居した。引っ越し費用がなかったからだ。

「彼に出て行かれたら、私一人では家賃を払えない。だから、これで良かったのだと思う。離婚後に応募した公営住宅の入居が決まって、その順番待ちの状態だった。だから、動こうにも動けなかったっていうのもある。でも、家で彼とは滅多に会わない生活なので、別に平気でした」

 公営住宅に空きができ、新生活を開始したのは、息子が小学3年の時だった。家賃は2万円台、これなら何とか暮らして行けるはずだった。

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

 

 
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貧困の連鎖を断ち切るために

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