三年前から、葉子さんが勤務する宅配便の会社では、パートにも厚生年金と社会保険という福利厚生制度を適用することとなった。
「これはすごく大きい。本当に助かっている」
現在の勤務時間は、8時半から16時まで。長期勤務者ゆえ、時給は1500円、月に20万ほどの手取りになる。一人暮らしのため、食費や光熱費も子育て期より少なくて済む。インドア派で家の中でゆっくり過ごすことが好きな葉子さんは、娯楽費もそうかからない。だから、貯蓄も可能となったのだ。
子育ては終えた。息子の未来に心配はない。しかし、葉子さんの前途は明るいものとは言い難い。
「体力勝負のこの仕事を、いつまで続けて行けるのか。今はまだ40代、だから働いて行けるけれど、50代、60代になっても体力的にやれるのか。何歳まで、この仕事を続けて行けるのか」
身体だけが、資本の仕事だ。資格も手に職があるわけでもない。ドライバーとしての経験を一体、何歳まで生かして行けるのか、それは本人にもわからない。
子育てを終えたシングルマザーに”希望”はあるのか
「私の老後には、何もない。息子に頼ることもできないし、向こうにしても、二人だけの生活で精一杯。母親への援助など、無理」
三年前から厚生年金に加入したとはいえ、微々たるものだ。国民年金は免除のまま、遡って払える日は永遠に来ないだろう。ということは老後、年金だけで食べて行くのは不可能なのだ。ドライバーが無理なら介護や掃除など、高齢女性が行う仕事に就くしかないのだろうか。それも、身体あってのものだ。
老後に2000万が必要と言われる、この国だ。子育てを終え、シングル女性となったかつてのシングルマザーに、老後を生き抜く力や資産などあるわけがない。希望を見出す光など、目を凝らしてもどこにも存在しない。
葉子さんの未来は、多くのシングルマザーないしシングル女性に共通のものだ。
将来に何か、たったひとつでも“希望”が見えるのなら……。子育て終えた、多くのシングルマザーが、身を切るほど渇望するものだ。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。