ひとり親家庭の研究を続ける、神戸学院大学の神原文子教授は、「日本における女性の貧困」という論考において、このように述べている。
「親の学歴と子どもに関する最終進学目標との関連をみると、『中卒・高卒』の母親のうち、子どもに『短大・大学・院』進学を期待するのは33.5%であり、『短大・大学・院卒』の母親の73.6%とは大きな開きがある。(母親の)学歴が『中卒・高卒』で、非正規就業ゆえに低収入の場合、子どもの大半は『中卒・高卒』の可能性が高いと推察される」
この論考の中で神原教授は、母子世帯で育つ女性の39.5%、男性の31.4%は非正規就業か失業となりえると試算している。
このデータを見ただけでも、葉子さんの息子は例外中の例外と言える。奨学金の返済がなく、正社員として社会人生活をスタートさせることはまさに奇跡の技でしかない。それはひとえに、500万円ものお金を息子のために使うという、父親という支えがあったからだ。離婚して離れ離れになったとはいえ、自分の息子を大切に思う気持ちと、たまたま手にした遺産という原資があったからだ。
考えてみれば、こんなウルトラCの奇跡でも起きなければ、非正規就業の母の元で育つ子どもは、貧困の連鎖を断ち切れないことになる。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。
プロフィール
黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。