スペインへ逃げてきたぼくのはしっこ世界論 第1回

2018年EUの「ごった煮」の中で

飯田朔
30歳目前。日本の息苦しい雰囲気に堪え兼ね、やむなくスペインへ緊急脱出……。
政治、経済、外交、文化。日本から遠く離れたかの地もまたいま、様々な困難に直面している。他方で、問題山積みなのにいまだに国民の政治への関心が少ない日本と比べ、スペインには幾分マシな可能性を感じるという。アメリカ、イギリスに先んじて世界帝国を経験した歴史、異文化との接触にさらされ続けた地理的な属性、理由は様々だろう。
若き文筆家、飯田朔が世界の「はしっこ」から届ける不定期連載。日本から見た世界のはしっこ(スペイン)と、世界から見たはしっこ(日本)へ向け、母国から遠く離れてしまった飯田自身の日々を描く。

 29歳になるこの年の春、ぼくはスペインのサラマンカという街へ語学留学にきている。

 これまで東京で塾講師をやりながら、知り合いで批評家をやっている人のもとで文筆修業をしたりしていたのだが、少しずつ「いまの日本の雰囲気がいやになり」、仕事も生活も一時中断し、日本を離れることにした。スペインを留学(脱出)先に選んだ理由は、もちろんスペイン語やスペインの映画が好きだったなどの理由はあれど、単純に英語圏より費用が安かったから(本当はアメリカで映画史の勉強でもしたかった)。サラマンカは、スペインの首都マドリードから車で2時間ほど北西へ進んだところにあり、創立800年のサラマンカ大学をはじめ、かなりの歴史を持つ都市だ。旧市街が世界遺産に登録されてもいて、各国から留学生が集まる。

 不思議なことだが、日本を出る直前になって、人生で初めて出版社から原稿執筆の依頼がきた。そう、いまあなたが読んでいるこの文章のことだ。編集者のWさんから、スペインについて書くのはどうか、いま独立問題で揺れているカタルーニャを入口にするのはどうか、との話をもらった。正直カタルーニャについては全然知らない。留学先のサラマンカは、スペイン中央部のカスティーリャ・イ・レオン地方に属する都市で、北東部のカタルーニャ地方へ行くには列車で何時間もかかる。

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第2回  
スペインへ逃げてきたぼくのはしっこ世界論

30歳を目前にして日本の息苦しい雰囲気に堪え兼ね、やむなくスペインへ緊急脱出した飯田朔による、母国から遠く離れた自身の日々を描く不定期連載。問題山積みの両国にあって、スペインに感じる「幾分マシな可能性」とは?

プロフィール

飯田朔
塾講師、文筆家。1989年生まれ、東京出身。2012年、早稲田大学文化構想学部の表象・メディア論系を卒業。在学中に一時大学を登校拒否し、フリーペーパー「吉祥寺ダラダラ日記」を制作、中央線沿線のお店で配布。また他学部の文芸評論家の加藤典洋氏のゼミを聴講、批評の勉強をする。同年、映画美学校の「批評家養成ギブス」(第一期)を修了。2017年まで小さな学習塾で講師を続け、2018年から1年間、スペインのサラマンカの語学学校でスペイン語を勉強してきた。
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2018年EUの「ごった煮」の中で