スペインへ逃げてきたぼくのはしっこ世界論 第1回

2018年EUの「ごった煮」の中で

飯田朔
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スペイン留学とEUへの期待感

 とはいえ、「カタルーニャ」についてある映画を思い出した。『スパニッシュ・アパートメント』という作品をご存じだろうか。2002年フランス・スペイン合作で、監督はフランス人のセドリック・クラピッシュ。この映画はバルセロナの学生アパートが舞台の青春ドラマだ。

 大学卒業を来年に控えたフランス人の青年グザヴィエは、就職に役立つだろうと考え、(2002年当時)経済発展の著しいスペイン・カタルーニャの州都バルセロナに留学する。グザヴィエは、学生アパートに住みはじめ、イギリス・ドイツ・イタリア・スペイン・デンマーク・ベルギー等々、EU各国から集まる個性的な若者たちと出会い、飽きることのない日々を送っていく。オシャレで、見やすくて、示唆的な部分もあるバランスのとれた作品だ。中学3年生のとき、ぼくは吉祥寺のレンタルビデオ店でこれを借り、スペインへ留学したらこんなウハウハな青春を送れるのかあ、と素朴にあこがれた記憶がある。まさか自分もスペインへ留学することになるとは。

創立800年を誇る、サラマンカ大学のキャンパス

 けれど、かつてのぼくは「スパニッシュ」という言葉に流され、舞台がバルセロナ、つまりカタルーニャであることに無頓着だった。最近見返したところ、主人公グザヴィエがバルセロナの大学の講義で、カタルーニャ語で授業を始める教授に「他国の学生もいるのだからスペイン語で話してくれ」と要求し、教授から「ここはカタルーニャだからカタルーニャ語で授業をする。スペイン語で受けたいならよそへ行け」と、ピシャリとはねつけられる場面があったことにいまさらながら気がついた。

 この映画はいま見返すと面白い、というのは二つの点から言える。一つめは、「EUへの期待感」という要素。まず主人公やその友人の学生たちが「エラスムス計画」と呼ばれるEUの留学制度を使ってバルセロナまできていることに注目したい。エラスムスとは、ざっくり言うとEU加盟各国の大学生が使える留学支援制度で、学生たちはEU圏内の留学であれば学費や生活費を援助してもらえる。その名は、15世紀の人文学者エラスムスから取られ、『スパニッシュ・アパートメント』でも、エラスムス本人がバルセロナの街中で主人公の前に姿をあらわす、白昼夢のような場面が何度か挿入されている。ちなみに、ぼくの滞在しているサラマンカにも、留学生が集う同名のバルがあったりする。

 この映画では、エラスムス計画という一制度を通じて、ヨーロッパ各国の若者たちが自由に行き来し、交流しあう解放感が印象に残る。またそういう若者たちの成長から新しい時代が作られていく、といった「EUへの期待感」が伝わってくる。

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第2回 
スペインへ逃げてきたぼくのはしっこ世界論

30歳を目前にして日本の息苦しい雰囲気に堪え兼ね、やむなくスペインへ緊急脱出した飯田朔による、母国から遠く離れた自身の日々を描く不定期連載。問題山積みの両国にあって、スペインに感じる「幾分マシな可能性」とは?

プロフィール

飯田朔

塾講師、文筆家。1989年生まれ、東京出身。2012年、早稲田大学文化構想学部の表象・メディア論系を卒業。在学中に一時大学を登校拒否し、フリーペーパー「吉祥寺ダラダラ日記」を制作、中央線沿線のお店で配布。また他学部の文芸評論家の加藤典洋氏のゼミを聴講、批評の勉強をする。同年、映画美学校の「批評家養成ギブス」(第一期)を修了。昨年(2017年)まで小さな学習塾で講師を続け、今年から、スペインのサラマンカの語学学校でスペイン語を勉強中。 

 
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2018年EUの「ごった煮」の中で

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