あなたを病気にする「常識」 第4回

「少しぐらいの酒は健康に良い」は本当か?

津川友介
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写真提供/jazzman / PIXTA

確かな科学的根拠に基づいて、誤った常識を塗り替える医療エッセイ、
今回のテーマは「お酒と健康」です。
赤ワインは身体にいいという人もいますが、果たして……?

 

【誤った「常識」】

お酒は百薬の長と言われるように、
少量ならばむしろ健康に良い。

 

動脈硬化のリスクは下がるが、がんのリスクは上がる?

 お酒を人生の楽しみにしている人は多いだろう。お酒を飲むことで楽しい気分になってストレス発散になる人もいれば、気の置けない友人とワイワイお酒を飲む雰囲気が好きな人もいるだろう。仕事の種類によっては会社の同僚や取引相手と毎晩のようにお酒を飲んでいる人もいるだろう。その人たちにとっておそらく心配の種の一つが「お酒は身体に悪いのか?」ではないか。

 お酒、すなわちアルコールに関しては、健康に悪いという話もあれば、少量ならばむしろ健康に良いといううわさもあって、本当のところどうなのか分からないと困っている人も多いようである。

 実はそれには理由がある。複数の研究結果から、今のところ「2つのこと」が言えるのだが、この2つが相反するため、このようなはっきりしない結論になってしまうのだ。

 脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化で「血管が詰まる病気」に関しては、アルコールは大量であればリスクが上がるが、少量であればリスクはむしろ下がると報告されている。その一方で、がんに関してはアルコールは少量であってもリスクが上がる(飲む量が増えるほどリスクが高くなる)ことが明らかになっている。

 このように病気の種類によってアルコールの影響が異なるため、アルコールは「少量なら良い」という情報と「少量でも健康に悪い」という情報が混在しているのである。それではもう少し詳しくアルコールに関して何が分かっているのか見てみよう。

 そもそもアルコールが少量ならば健康に良いのではないかという話は、フランス人の食生活に関するある現象から来ている。脂肪の摂取や喫煙は、動脈硬化を起こして脳梗塞や心筋梗塞を起こすことは昔から知られていた。

 ところが、フランスではバターなどの健康に悪い脂肪をたくさん摂取し、喫煙率も高いにもかかわらず、近隣諸国よりも心筋梗塞による死亡者が少ないことが知られており、「フレンチ・パラドックス(フランス人の逆説)」と呼ばれていた。フランス人はワインの摂取量が多く、これが健康に良い働きをしているためこのような現象が見られるとする仮説がここから生まれたのだ。

 その後、複数の研究でアルコールは少量であれば動脈硬化を原因とした病気によって死亡する確率を減らす可能性があると報告され、これにより「アルコールは少量であれば健康に良い」と信じられるようになってきた。

 例えば、2018年4月、世界的にも権威ある医学雑誌であるランセット誌に掲載された論文だ。これによれば、今までに行われた83個の研究結果を統合して解析したところ、アルコール換算で週100グラムまでであれば、脳梗塞や心筋梗塞による死亡のリスクは上がらないと報告されている。

 少し話がそれるが、ここで注意が必要なのは、【アルコールで脳梗塞や心筋梗塞のリスクが下がっている(因果関係)】のか、【アルコールを飲んでいる人が脳梗塞や心筋梗塞のリスクが低いだけ(相関関係)】なのかは、実はまだよく分かっていないということである。

 遺伝的要因によってアルコールが飲める人と、すぐ赤くなって飲めない人がいる。アルコールを飲むと具合が悪くなる人はもちろん飲酒量が少ない。もしアルコール耐性の遺伝子を持っている人ほど脳梗塞や心筋梗塞のリスクが低いのであれば、アルコールを飲んでいる人ほどリスクが低くなるように見えてしまうことはありえると考えられている

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あなたを病気にする「常識」

テレビ、本、ネット……健康についての情報に触れない日はない。 だが、あなたが接している健康の「常識」は、本当に正しいものなのだろうか? 確かな科学的根拠に基づいて、誤った常識を塗り替える医療エッセイ。

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プロフィール

津川友介

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授。

東北大学医学部卒、ハーバード大学で修士号(MPH)・博士号(PhD)を取得。
聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。
著書に『週刊ダイヤモンド』2017年「ベスト経済書」第1位に選ばれた『「原因と結果」の経済学』(中室牧子氏と共著、ダイヤモンド社)、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)がある。
ブログ「医療政策学×医療経済学

 
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