対談

1億人が集まるインドの奇祭「クンブメーラ」奮戦記

名越啓介×辛酸なめ子対談
名越啓介×辛酸なめ子

──期間中、体調は大丈夫でしたか?

辛酸:最初に行ったときは暑さにやられて熱中症になってしまって、病院で一泊することになりました。今回は咳でしたね。最初、デリーに一泊したんですが、朝起きたら朝靄が立ち込めていて、きれいだなと思って呑気に吸い込んだりしていたんですが、今思えばPM2.5ですよね。

名越:サドゥも結構、咳をしていました。

辛酸:確かに。四六時中、砂ぼこりがすごかったですし、のど飴とかを大量に持って行かないと体調管理が難しい。あとはトイレが全部ドロドロで汚なかったり、そういうもので精神的なダメージを感じることがありました。

名越:仮設の公衆トイレがいっぱいありましたけど、男性はほとんど使ってなかったんじゃないかな。トイレの横で連れションしたり、人目を気にせず野糞してる人がいたり。

辛酸:誰もトイレを信じていないのかも。ツアーの中には大人のおむつを持って来ている人もいました。でも、夜はすごい楽しくなかったですか? ディズニーランドじゃないけど、電飾がすごくて。

 

 

名越:そうですよね。アシュラム(道場)やキャンプの経済力とか権力を象徴するような神様のオブジェとか、びっくりするくらい巨大なものがあったり。個人的に面白かったのが、「3Dクンブシアター」っていう映画館みたいな劇場。これはヤバいんじゃないかって見に行ったら、超しょぼかったです。プロジェクションマッピングみたいな映像と、変なトランスの音楽が流れていて(笑)。

辛酸:それぞれのキャンプにライブ会場みたいなものがついていて、そこでボリウットみたいな映画がかかっていたり、スターみたいな人がライブをやっていたり。

名越:2万人ぐらいが入るんじゃないかという大きなホールもありましたね。音楽は夜通し爆音でかかっていて、自分たちが寝ているところなんかはもう、24時間寝られないくらいの音量で。他の観光客は見かけました?

辛酸:観光客はあまり見なかったかもしれないです。真剣に歩いているインド人ばかりでした。

名越:特に印象に残ったのが、同じキャンプに泊まっていた65歳ぐらいのイタリア人のおばさん3人組。一緒にパレードを見に行ったんですけど、かなりハイテンションでケラケラ笑いながらサドゥの男性器を撮っていました。もう一人、単独で来ているらしいカメラを持った女の人が、「ストレンジャーはどこに行ったら会えるの?」と。ストレンジャーって、すごい言い方するなぁと思って(笑)。

 ──現地でインターネットを使ったりは?

辛酸:私、「ポケモンGO」を一応立ち上げたんですが、やっぱり何もなかったです。

名越:(笑)。ポケモンはいなかったですか?

辛酸:いなかったですね。ポケモン以上にレアな人がいっぱいいたので。

名越:でも、この画面みたいにものすごく孤独な気持ちになるときはあったなぁ。無限のインド人とすれ違い続けているのに、自分だけしかいないような瞬間が。

 

現地で起動したポケモンGOのスクリーンショット。見事なまでに何もない。

 

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プロフィール

名越啓介×辛酸なめ子

名越啓介:1977年、奈良県生まれ。大阪芸術大学卒業。19歳で単身渡米し、スクワッター(不法占拠者)と共同生活をしながら撮影活動を続け、その後、アジア各国をめぐり『EXCUSE ME』で写真家デビュー。主な作品に『SMOKEY MOUNTAIN』(赤々舎)、『CHICANO』(東京キララ社)、『Familia保見団地』(世界文化社、藤野眞功氏との共著)、『笑う避難所 石巻・明友館136人の記録』(集英社新書、頓所直人氏との共著)など。

 

辛酸なめ子:1974年、東京都生まれ。女子学院中・高を経て、武蔵野美術大学短期大学部に入学。1994年、渋谷パルコのフリーペーパー『GOMES』漫画グランプリでGOMES賞を受賞し、これをきっかけに雑誌などに連載を始める。主な著書に『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか』(PHP研究所)、『魂活道場』(学研プラス)、『おしゃ修行』(双葉社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)、『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社)など。 

 

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