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日々、動物の生死と直面する作家が考えた「殺生の意味」──羊飼いの作家、河﨑秋子氏インタビュー【最終回】

河﨑秋子・作家

河﨑秋子
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シジミやアサリを投入するときに何を思うか

──言葉にすると陳腐ですが、人間と自然との関係というものは……。

上下関係でも、支配関係でも、従属関係でもないですよね。

──でも、そういった関係の意味みたいなことを、ことさら意識して書いているわけでもなさそうですね。

それはないですね。「これは書くべきだな」という内圧が一定以上になったときに書くというだけで。書きたくて書いたというより、書かなきゃいけないので書いたという。書くのが好きだからとか、そういうのとはまた違う気がします。だから、書いているときは楽しいと同時に苦痛です。

──そういう意識で書いているからこそ、行間から、河﨑さんの中で沈殿していただろうメッセージが強く伝わってくるんでしょうね。人間もまた、無防備に命をさらしたいち動物に過ぎないということを自覚するためにも、人間から殺生という行為を遠ざけ過ぎてはいけない気がします。 

ただ、最近は食育とかが盛んで、それこそ学校で子豚を飼育して、それを肉にしてもらってみんなで食べるということもあるそうですが、個人的な意見としては、強制するものではないと思います。「参加したくない子は参加しなくていいですよ」と言われても、教室の中には、やらなきゃ、同調しなきゃという空気が流れているものですから。もし向き合おうという時期がきたなら、自発的に何か取り組めばいいと思います。食肉加工場の見学にいってみるのもいいでしょうし、自分で生き物をさばいて食べるのでもいい。

──でも現代において、そういう機会は、そうそうないですよね。

そんなことないですよ。今、日本人にとって身近なのは、シジミやアサリじゃないですか。シジミやアサリのみそ汁をつくるとき、ちょっと考えてからお湯に投入してみて下さい。食育のお陰で、今、テーブルに並んでいるお肉が、どういう経緯を経てきたかということは知識としてはわかると思うんです。でも、大切なのは、それをどこまでリアルに感じられるかですよね。もし、その食育が成功しているのなら、シジミやアサリを調理して食べるときにも、命について何かを感じられると思うんです。

(取材・構成 中村計)

 

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プロフィール

河﨑秋子

羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年『颶風の王』三浦綾子文学賞受賞。翌年7月『颶風の王』株式会社KADOKAWAより単行本刊行(2015年度JRA賞馬事文化賞受賞)。最新刊に『肉弾』(KADOKAWA)。

 
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