「もちろん、今でも民主化の旗を掲げて活動している人もいるし、北京の街の片隅でひっそりと生きながら若いときの志を曲げずにいる人もいます。けれども、大多数の人々は、それぞれの人生を懸命に歩んで今を生きている。どの人の生き方も間違いではない、としか言いようがありません。いろいろな人生があって、それぞれ肯定されるべきことだろうなとは思っています」
本書の内容全体を総括し、安田氏はこう語る。
良くも悪くも天安門世代が、現在の中国の繁栄を支えているのは事実だ。
「当時を生きた人が今は何をしているかを訪ねる取材は、『現代の中国が、こうである理由は何なのか』という問いから始まりました。現代中国の根源は、間違いなく『八九六四』なんです。天安門世代の今を知ることは、今の中国を作り出しているのは何かを知ることなのです」
安田氏は今、日本の外国人労働者に注目しているという。語学と歴史に通じたルポライターが、移民社会化する近未来の日本をどう描くか、次作が楽しみである。
文責:広坂朋信
※季刊誌「kotoba」33号に掲載された著者インタビューを修正の上、転載しました。
なお、『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)は2018年第5回城山三郎賞、および2019年第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しております。
プロフィール
ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員研究員。1982年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部(東洋史学専攻)卒業後、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。在学中、中国広東省の深圳大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、運営していたブログを見出されて著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について執筆を行っている。著書はデビュー作である『中国人の本音』(講談社)をはじめ、『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』『境界の民 難民、遺民、抵抗者。国と国との境界線に立つ人々』(いずれもKADOKAWA)など。編訳書に『「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄』(顔伯鈞著、文春新書)など。2018年、『八九六四―「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)で第5回城山三郎賞および第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。