著者インタビュー

歴史的大事件を生きた人々の青春

『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』 著者インタビュー
安田峰俊

平成という時代が終わりを迎え、令和が到来した。平成の約30年間に何があったのか、自分はどう生きたのかをふりかえる機会もあるだろう。

本書の題名『八九六四』は、平成元年(1989年)にお隣の中国で(第二次)天安門事件の起きた日、すなわち1989年6月4日という日付を指す。この日、民主化を求めて北京の天安門広場に集まっていた学生たちを、中国共産党政府は武力弾圧した。流血の惨事は国際的非難を浴び、以来、中国国内では「八九六四」という数字の並びすらもタブーとされている。

『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』 安田峰俊著・KADOKAWA  1700円+税(撮影:伊豆倉守一)/2018年第5回城山三郎賞・2019年第50回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品

本書は、中国通の気鋭のジャーナリストが、平成の最後の年、そして令和元年となった2019年で30年を迎える歴史的大事件に遭遇した人々の肉声をとらえた、稀有なるインタビュー集である。著者の安田峰俊氏は語る。

「この本に登場してもらったのは25人くらいですが、実際には4年近くかけて60人以上の方々に取材しました」

その25人のなかには民主化運動家のほかに、編集者、無職(前科二犯)、投資会社幹部、旅行会社経営者、ジャーナリスト、元自転車修理工(難民申請中)、タクシー運転手、司書、大学准教授など、さまざまな職種・階層の人たちが含まれている。もちろん、著名人以外は仮名で登場する。

「著名な民主化運動家たちの話はステレオタイプな内容が多かったので、証言が興味深い人の話だけに絞った結果、こうなりました」

天安門事件は中国社会では今でもタブーだ。そのため著名人以外は仮名で登場する。取材も困難を極めたのではないか。

「中国国内では電話もインターネットも当局の監視下にあることは常識ですから、アポイントを取るまではかなり大変です。でも、いざ会って話を聞くと、皆さんよく話してくれました。若い頃の自分が一番純粋だった時代に、真剣にのめり込んだこと。比喩ですが、“当時の自分に会ったら抱擁してあげたくなる”ような、そういう時代を、誰かに聞かれたら語りたいのだろうなということはすごく感じましたね」

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プロフィール

安田峰俊

ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員研究員。1982年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部(東洋史学専攻)卒業後、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。在学中、中国広東省の深圳大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、運営していたブログを見出されて著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について執筆を行っている。著書はデビュー作である『中国人の本音』(講談社)をはじめ、『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』『境界の民 難民、遺民、抵抗者。国と国との境界線に立つ人々』(いずれもKADOKAWA)など。編訳書に『「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄』(顔伯鈞著、文春新書)など。2018年、『八九六四―「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)で第5回城山三郎賞および第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

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