インターネット上にフェイクニュースの氾濫するポストトゥルースの時代に求められた新しいリアリズム。その哲学上の代表的理論家たちの思想を、本書は4つの章で明快に説き明かす。
「フランスのカンタン・メイヤスー(第1章)は、カントのコペルニクス的転回、つまり人間は人間の認識能力の範囲外のことは認識できないとする考え方では相対主義に陥るとして、カント以後の哲学を全部批判して思弁的実在論を唱え、生命が誕生する以前の地球の状態についての科学的認識や神についての思索に意味を取り戻そうとします。
アメリカのグレアム・ハーマン(第2章)のオブジェクト指向存在論は、物と物との関係を人間を介在させずにとらえようとするもので、人間の認識がつくり出した範囲の外へ思考を向かわせようとする点でメイヤスーと似ています。
第3章で取り上げたチャールズ・テイラーとヒューバート・ドレイファスはすでに国際的に知られた超一流の学者です。カナダのテイラーはヘーゲル研究の大家であり、共同体主義の論陣を張る政治哲学者でもあります。ドレイファスはアメリカにおけるハイデガー研究の第一人者で、ほかにAIとか『心の哲学』の分野でも業績を残しています。この二人の唱えた多元的実在論は自然科学の客観的な認識と価値や意味に関わる文化的認識との対立を調停し、いずれも実在にアクセスできるとしました。
こうした先行説に対してガブリエルの新しい実在論は、自由や人権といった価値もまた実在するものと考えることでポストヒューマニティーズの枠を超えて、人間の生き方に関わる新しい現実主義を提示しています(第4章)。それはサルトルらとは違うかたちですが、人間の自由を擁護する点で新しい実存主義ともいえます」
多士済々の上、認識論・存在論から現代人の生き方まで幅広い領域を覆う現代実在論を巧みに整理しえたのは、著者の博識はもちろん、本書のプロローグとエピローグで示される著者の鋭い時代認識によるところが大きい。
現代哲学はちょっと苦手と思う向きも、ぜひ本書を手に取ることをお薦めする。抽象的な議論が私たちの生々しい現実に染み込んでくる衝撃を味わえるだろう。
文責:広坂朋信/写真:野崎慧嗣
※季刊誌「kotoba」39号に掲載の著者インタビューを一部修正の上、転載しています。
プロフィール
1987年生まれ。早稲田大学国際教養学部助手を経て、現在、早稲田大学ほかで非常勤講師を務める。主な論文に「思弁的実在論の誤謬」(『フッサール研究』第一六号)、「判断保留と哲学者の実践」(『交域する哲学』月曜社)など。2019年10月に刊行された『新しい哲学の教科書 現代実在論入門』(講談社選書メチエ)が初の著作となる。