昨年来日し、テレビ番組に出演するなどしてブームを巻き起こしたドイツの哲学者マルクス・ガブリエルを主唱者とする「現代実在論(新実在論)」が注目を浴びている。この思想界の新潮流を、ガブリエルだけではなく、他の哲学者たちの学説も取り上げながら明快に整理してみせた『新しい哲学の教科書』(講談社選書メチエ)の著者、岩内章太郎氏に話をうかがった。
元ラガーマンの哲学者!?
ずいぶん大きな人だなというのが、実際に会ってみた岩内氏の第一印象だった。聞けば身長は185センチ、背が高いだけでなく肩もがっしりしている。
高校まではラグビーに打ち込み、なんと国体にも出たという。ラガーマンがどうして哲学の道に進んだのか?
岩内 ラグビーは結構、真剣にやっていて、2019年ラグビーワールドカップ日本代表のキャプテンを務めたリーチ・マイケルは北海道の高校のライバルチームでした。好きなものはラグビーと哲学、そのふたつがずっと好きでした。
――つまり、ラグビーと並行して哲学にも関心があったと?
岩内 小学生のころから死について考えることがありました。自分が死ぬのが怖かったし、親が死ぬのも嫌だった。どうして人は死ぬんだろうと思っていたところ、中学生の時に父親の本棚にあったハイデガー『存在と時間』を開いてみて、内容はよくわからないながらも、死について考えるのなら哲学という学問があるのだと知りました。高校生の頃は、自分の存在の意味は何か、というようなことを考えていました。
――大学院ではエトムント・フッサールの提唱した現象学(学問の基礎付けや人間の意識についての精緻な分析で知られる現代哲学の源流の一つ)を研究されていますね。
岩内 実は、大学院に進むときに修士論文の研究計画書にニヒリズム研究をやりたいと書いたのですが、師匠の竹田青嗣(せいじ)先生から「現象学をやりなさい。フッサール現象学をやった方が良いから」と言われて、その一言で現象学を専攻することにしました。
というのは、私は「この人は信頼できる」と一度思うと、その人の言ったことはとりあえず守ってみて、一生懸命やってみることにしているからです。このメンタリティはたぶんラグビーで培ったものです。経験のある人間の言ったことに従って頑張ってみることが自分のラグビーにとってプラスになってきた。
竹田先生のことは大学に入る前から知っていて、大学に入った時にはもう「この人に哲学を学ぶんだ」と決めていた師匠です。ですから「この先生がそう言うなら」と思って現象学を研究しました。
プロフィール
1987年生まれ。早稲田大学国際教養学部助手を経て、現在、早稲田大学ほかで非常勤講師を務める。主な論文に「思弁的実在論の誤謬」(『フッサール研究』第一六号)、「判断保留と哲学者の実践」(『交域する哲学』月曜社)など。2019年10月に刊行された『新しい哲学の教科書 現代実在論入門』(講談社選書メチエ)が初の著作となる。