著者インタビュー

ディレクター目線で自分を取材

『映画を撮りながら考えたこと』著者インタビュー
是枝裕和

映画制作の合間に可能なかぎり取材を受けてきた。取材の間、映画制作をやめようと休業宣言した知られざる背景も明かされている(第9章)。

復帰へのきっかけとなったのは、JR九州の依頼による、九州新幹線全線開業をテーマにした映画『奇跡』だった。同時に東日本大震災が起こったこの2011年という年が、是枝氏にとってのターニングポイントとなった。

このとき、是枝氏は「かけがえのない大切なものは非日常の側にあるのではなく、日常の側のささやかなものの中に存在している」ということを確かなものとして感じたという。

「『奇跡』以降、自分の世界観が外からの刺激によって開かれてきたなと思いました。何かとても風通しがよくなったと感じるんです。例えると“作家”よりも“職人”を目指して作ったというか。これは大きな変化でした。そして新作の『海よりもまだ深く』では自分のホームグラウンドに戻ってふたたび“作家”として仕事をしました」

本書を一つの区切りとして、是枝氏は今後の20年で何をどう撮るかを構想中だという。

「僕は“家族”や“遺された人”を撮る監督と言われてきましたが、今後は事件性や歴史性のあるものなど、今までとは違う方向へ向かいそうです。その一つが“棄民政策”です」

日本の経済繁栄の影で異国に渡り、我々日本人の記憶から忘れ去られてきた人々もいわば”遺された人”だ。

「そこはやはり僕の中で通底するテーマなんですね。今まで家という小さな枠で表現してきたことを、別な場所でやってみようということですね」

 

文責:小泉まみ

季刊誌「kotoba」25号に掲載の著者インタビューを一部修正の上、転載しています。

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プロフィール

是枝裕和

映画監督、テレビディレクター。1962年、東京都生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。2004年、映画『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭で映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)を受賞、話題を呼ぶ。近作に『そして父になる』(13年)、『海街diary』(15年)、『海よりもまだ深く』(16年)、『いしぶみ』(16年)など。著書に『歩くような速さで』(ポプラ社)、『雲は答えなかった 高級官僚 その生と死』 (PHP文庫)など。

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