対談

栗山英樹×佐山和夫 これからは「守備の九刀流」?

WBC優勝監督と殿堂入り作家が語り合う「野球のSDGs」・前編

一塁に盗塁?

佐山 野球の活性化に関しては、じつはもっと有効なことがあります。私が密かに抱いている妙案なのですが、笑わないでくださいよ。初期のベースボールに実際にあったことですが、最初、フライボールはノーバウンドで捕っても、ワンバウンドで捕っても、同じようにアウトでした。それならワンバウンド捕球のほうが楽ではないかと思われるでしょうが、じつはさにあらず。当時は地面が凸凹で捕りにくい。それだけに観客たちの拍手も、ワンバウンド捕球のほうが圧倒的に多かったんです。

栗山 へえ、そうだったんですか。ワンバウンドしたとき、どっちに跳ねるかわからないグラウンド状態だったから、捕られたらアウトだったんですね。

佐山 そう。調べてみると、ノーバウンドで捕ったときだけアウトというルールに変わったのは1864年なのですが、1870年代はまだ、ファウルのエリアだけワンバウンドアウトがあったんです。アメリカ野球学会(SABR)には「もう一度、その時代に帰れ」という人がいましてね、私もそれに賛成しましたよ。だって、ファウルがワンバウンドで捕ってもアウトなら、レフトもライトももっと走りますよ。

栗山 確かに、確かに。ファウルか、と思って止まってたのが、アウトになるなら走りますね。

佐山 キャッチャーへのファウルフライだって、捕ってもアウトなら、ワンバウンドが横に跳ねても飛びつくだろうし。何であれ、動きは出てきます。

栗山 面白いですね。というか、“野球を面白くする委員会”みたいなものをつくって、本当にそういうルールで試合をしてみたら、もっと面白いかもしれない。

1961年生まれ。83年ドラフト外でヤクルトスワローズに入団、90年限りで引退。2012年から21年まで北海道日本ハムファイターズの監督をつとめ、リーグ優勝2回、日本一1回。21年12月に野球日本代表トップチームの監督に就任し、23年WBC優勝に導く。現在はファイターズCBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)。
1936年生まれ。『史上最高の投手はだれか』『ベースボールと日本野球』『明治五年のプレーボール』『古式野球:大リーグへの反論』など著書多数。2021年に野球殿堂表彰者(特別表彰部門)に選出された。

佐山 アメリカなら、実際に試合をできる可能性があります。ニュージャージー州のアトランティック・リーグです。ここは「野球ルールの実験場」とあだ名されていて、大リーグがいきなり採用できないような新ルールをそこで試させるわけ。

栗山 そんなリーグがあるんですか?

佐山 あるんです。3A級の独立リーグで、大リーグと提携しているんですが、例えば、3年前(2021年)に投手板からホームベースまでの18.44メートルを18.75メートルにしたんですよ。つまり投手板を30cm後ろに遠ざけ、打者を有利にしようというのですから驚きます。

栗山 すごいですね。打者有利だと、やっぱり点が入りやすいんですかね。ピッチャーにはめちゃめちゃストレスかかりそうですが。

佐山 詳しいデータを集めて、もしも「このほうがベースボールは面白くなる」ということになれば、大リーグでも採用されるかもしれません。そうした「実験」を、アメリカでは下のリーグから段階的に進めて上に挙げますので、実施となると決断は速い。ベースを大きくしたのもその一環で、あれは盗塁を増加させ、ゲームに動きを加えようということでした。盗塁といえば、アトランティック・リーグで始まった「一塁に盗塁」というのもあります。

栗山 一塁に盗塁?

佐山 投手からの投球をキャッチャーが捕り損ねて、横にはじいたりしますね。あるいは、パスボールというのもあります。そんなとき、打者は一塁へ走っていいんです。

栗山 何ストライクでもいいんですか?

佐山 そう、何ストライクでもいい。

栗山 野球の動きが多くなりますね。パスボールした瞬間にバッターが走るって、急に飛び出すわけですから。

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