(前編からつづく)
栗山英樹氏、佐山和夫氏の「野球の持続可能性」をめぐる対話は、いよいよ佳境へ。話題は「野球は9回まで」という常識に対する問い直しへ──。
構成・高橋安幸 撮影・五十嵐和博
7回で終わりなら、野球はこう変わる
佐山 野球は動きが少ない、点が入りにくい。だから「ゲームが退屈だ」というファンの不平があるわけですけど、もうひとつの「ゲームの時間が長過ぎる」という難問もあるんですね。
栗山 皆さん「時間が長い」と言うので気にはなっていましたが、プレーしているほうは長いとか感じていないものなんです。僕自身、ユニフォームを着ている間は、全然、長く感じていなかったんですね。
佐山 私も長いと思ったことはあまりないですよ。でも、今、アメリカでは、9回は長過ぎると感じている人のほうが多そうですね。すぐには事情がわからなかったものですから、友人たちにメールや手紙で問い合わせました。「7回がいいのか、9回がいいのか、私にはわからないのだ」と書いて。すると驚いたことに、大半の人の答えは「7回がいい」でした。中には「カズオ、今ごろ何を言っているのだ。7回がいいに決まってるでしょう」という人までいました。「もうとっくに7回になってますよ。アマチュアはたいていそうですよ」と。
栗山 日本の高校野球でも、夏の暑さ対策、球児の体を守るということで、ひとつの考え方として、7回にするという案がありますね。僕は賛同しないですけど、7回にすると強いチームと弱いチームの差も少なくなるでしょう。
佐山 実際、メキシカン・リーグ(LMB)はもう2年前から7回ですし。
栗山 あっ、そうなんですか。
佐山 メジャーリーグでも、2000年と21年はコロナ禍の特別ルールでダブルヘッダーのときは7回だった。
栗山 ああ、そうでした。
佐山 メキシカン・リーグはね、7回でやり始めたらゲームがコンパクトになり、56%が3点差以内の接戦になって、ファンが増えたそうです。「だから7回のほうが9回よりもいい」という結論を、アメリカの連中は出しているのですけれどね。確かに、7回のほうが面白いというのはわからなくもない。
考えてみたら、ベースボールの最初は、ピッチャーはいい球しか投げなかった。それに、バッターは打てる球がきたら何でも打って出ることになっている。1球目から振るわけです。だから展開がものすごく早かったのでしょう。あっという間に6回、7回になっちゃう。「もっとやりたいな」いうことで9回になったのでしょうね。9回ぐらいまでやらないと、やったことにならないと。
栗山 なるほど。野球が9回ってそういうことなんですね、先生。
佐山 ところが、今や投手はどうですか。打ちやすい球を投げるどころか、打たせまいとして投げる。投球術も巧妙になり、変化球の種類も多い。打者も容易に手出しができなくなって、球を選ぶ。球史の初めごろ、投手は打者に打ちやすい球を投げ、打者は打てる球なら初球から振っていたのとは大違いです。投打の呼吸が密度を増して、相手の心を読み合う駆け引きが濃くなった。
初球から打者がどんどん振って出た時代では、ゲームの進行も早く、7回では短かったでしょう。打つのが面白くて、夢中になってゲームをしていると、あっという間に7回になった。しかし、今のような緻密な野球だと、9回は長過ぎるというのでは? 7回で十分だということなのではないでしょうか。
栗山 自分がベンチにいるときの感じをイメージしてみると、9回だと、「まだ5回だから」という感覚があるんですよ。それが7回だと「まだ5回」じゃなくなって、采配が変わると思うんですね。もっと初回から緻密に動かしていくと思います。僕ら「9回じゃないと作戦が立てにくい」と考えてしまうわけですけど、今の先生のお話を聞いて、そんなことないんだなと。
僕は何でもやるタイプですが、7回の野球になって、このピッチャーは早く打たないと点が取れないと思えば、初回から動かし始めますね。普通は初回には出さない代打も出すかもしれませんし--。もしかすると、7回だと、動きがある野球になるんですかね。
佐山 動きが全然違う。先取点を取ろうと、もう両軍が必死になる。先取点取ったらすぐ追加点がほしいし、先取点取られたほうはすぐ取り返したいし、常にゲームが活性化する。
栗山 確かに、初回の失点は大丈夫だと思ってますからね、9回あるので。それが7回になったらあんまり大丈夫じゃないわけで。そうやって采配を変えればいい、というだけなのに、勝手に「9回じゃないと」って考えてました。自分自身、むちゃくちゃ先入観にとらわれている、と気づかされます。