対談

栗山英樹×佐山和夫 これからは「守備の九刀流」?

WBC優勝監督と殿堂入り作家が語り合う「野球のSDGs」・前編

 野球は難しい。栗山氏のように、難しさも魅力のひとつ、と思える人は今、ごく稀なのではないか。何しろ、子どもたちがやっと基本的なプレイを習得して、ゲームができるようになっても、気を抜いたり、安心したりできない。少しでも失敗すれば、あとの苦しみが長い。もしも三振とかエラーをしたら、その後悔を修正するまでに時間がかかるからだ。

 その点、サッカーやバスケットボールだと、すぐにボールに触れる機会が来るから、修正も早くできる。が、野球では打撃においても守備においても、修正の機会はなかなか来てくれない。苦しむ時間が長いことから「もうやめたい」という者が出てくるという。

 アメリカの統計によると、幼児の頃から野球を始めた子も、13歳までに70%がやめてしまうとのこと。映画『フィールド・オブ・ドリームス』でも、主人公が車の中で「10歳のときに野球が重荷になって、14歳でやめた」という意味のことを言う場面があった。あれは事実に沿ったセリフだったと言えるだろう。

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「毎回、違うポジションを守る選手をつくりたい」

佐山 現実の問題として、「野球離れ」の原因を取り除くために、差し当たってできるルール改正が次々に提唱されています。そのひとつで、子どもたちに野球を続けさせる方法として、「守備位置も打順のようにローテーションさせればいい」というものがあります。例えば、ライトのポジションについた子はゲームの最後までずっとライト、という退屈を避けさせようというわけです。投手や捕手もすることがあったら、興味も緊張も湧きます。

栗山 実際に幅が広がりますね。じつは、僕が思っていたのは、プロ野球で毎回、9イニング、違うポジションを守る選手をつくりたい、ということでした(*)。当然ながら、翔平みたいな二刀流の選手をつくるのは難しいんですよ。それだけの素材が必要なので。でも、毎回ポジションが違う選手だったらつくれますから。僕のむちゃくちゃな発想ですけど、あったら面白いじゃないですか。

*日本ハムの三原脩監督(当時)が、1974年9月29日の南海戦(後楽園)で「消化試合のファンサービス」として高橋博士(当時、内野手登録)に9つのポジションを守らせたことがあるが、本格的に取り組んだ事例はない。

佐山 面白い。で、その発想、もうすでにゲームでやってるんです。守りのローテーション。実際に今、アメリカで使われてる少年野球のメンバー表をここに持ってきたのですけれど、選手が守るポジションを1回ごとに監督・コーチが表に書き込むんですよ。(メンバー表の実物を栗山氏に見せる)

「守備位置のローテーション」を書き込む欄があるメンバー表

栗山 すごい! これは、少年野球では「あり」ですね。めちゃくちゃ「あり」だな。クソーッ、そこまで気がつかなかった。監督やってるときにやりたかったな(笑)。

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