著者インタビュー

理想の教育へのビジョンとロードマップ

『「学校」をつくり直す』著者インタビュー
苫野一徳

教育に一家言ある人は多い。それは教育を語ることがこの社会の未来を語ることにつながるからだ。そこでみな口々に教育論を述べるが、たいていひとりよがりの思いつきに終わる。

苫野氏は、“自分の限られた経験を、誰にも当てはまるものとして過度に一般化してしまう” 思考を「一般化のワナ」と名づけて注意を促している(本書第2章)。また、教育学者として幅広く現場での教育実践を見てきたうえで、時には現在の学校で行われている授業を相対化して論じている(本書第3章)。

「教育学者としてさまざまな学校にかかわり、多くの先生方と対話してきました。その中で『よい』実践、すなわち学校のつくり方とか、授業のあり方とか、教師としてのあり方についての知見が蓄えられました。

『現場を知らないくせに』と言われることもありますが、一人の教師が知りうる現場にも限りがあります。研究者には研究者の現場があり、また子どもや親御さんからは別の見え方をしているかもしれない。だから、それを否定し合うのではなく、大きな方向性さえ見えれば、異なる立場にある全員がそれぞれの現場の知見を活かして、皆で協同していけると思っています」

苫野氏のいう大きな方向性とは「自由と自由の相互承認」への教育である。

「子どもにとってと、社会にとってと、どちらにとっても意義のある学校はどういうものか。そもそも公教育の本質とは何か。哲学的に言えば、それが『自由と自由の相互承認』です。

自由の相互承認を土台にした、自由な市民ひとりひとりを育てるために公教育はあります。そのためには、決められたことを決められたとおりに学ぶことが中心になっている教育から離脱し、個々の生徒が自分なりの問いを立て自分なりの答えにたどり着く、『探究』を中心としたカリキュラムに切り替えていく必要があります」

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プロフィール

苫野一徳

哲学者・教育学者。熊本大学教育学部准教授。1980年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。2020年4月に開校予定の軽井沢風越学園では理事を務める。著書に『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)、『教育の力』(講談社現代新書)、『子どもの頃から哲学者』(大和書房)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマ―新書)、『ほんとうの道徳』(トランスビュー)、『愛』(講談社現代新書)など多数。

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