著者インタビュー

理想の教育へのビジョンとロードマップ

『「学校」をつくり直す』著者インタビュー
苫野一徳

しかし、学習指導要領に縛られた日本の公教育で、一斉授業方式から離脱することは可能なのか? 

苫野氏は「カリキュラムの中核を『探究』にするのは、現行制度の観点からいってもまったく正当なこと」(本書第4章)だと指摘する。本書には公立の学校で実際に行われている「探究」型の学びの実践事例がいくつも紹介されている。「軽井沢風越学園」のめざす教育は夢物語ではないのだ。

「教室をのぞくと、年齢もバラバラの子どもたちが個々人で、あるいはグループごとに協力しながら、それぞれ自分の立てた計画に基づき自ら学んでいる。一見するとなんの時間なのかわからない。先生はアドバイザーとして、子どもたちの学びを助けて回る。

そんな教室の風景が、これからは当たり前になるかもしれません。『軽井沢風越学園』ではこうした新たな試みをどんどん展開していきたいと思っています。多くの先生方に、自分たちもやればできるし、やってみようと思ってもらえるようなワクワク感を与えられる学校にしていきたいですね」

それでは、学校の変革のために、教師でも教育行政の担当者でもない一市民としての私たちにできることは何か。「まずは知ること」だと苫野氏はいう(本書第5章)。

私たちが「一般化のワナ」によって当たり前だと思い込んでいる画一的なカリキュラムによる学校教育のイメージから抜け出し、今の学校教育は変えた方がよいし、変えることができると理解する人が増えれば、教育は大きく動き出す。そのために私たちは、当たり前の学校から転換を遂げている国内外の事例を知り、どのような教育が「よい」教育かというビジョンを知る必要がある。

どうすればそれを知ることができるのか? そのための一冊が本書なのである。

「私はこの本で、ビジョンとそこに至るロードマップと、大げさに言えば覚悟を示したつもりです。軽井沢風越学園も一つのハブになって、学校教育の根本的な構造転換を図っていきたいと考えています」

明快に言い切る苫野氏の覚悟は本物だ。やがて苫野氏による「軽井沢風越学園」からの発信がなされることだろう。大いに注目したい。

 

文責:広坂朋信/写真:内藤サトル

※季刊誌『kotoba』36号インタビューを修正の上、転載しました。

 

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プロフィール

苫野一徳

哲学者・教育学者。熊本大学教育学部准教授。1980年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。2020年4月に開校予定の軽井沢風越学園では理事を務める。著書に『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)、『教育の力』(講談社現代新書)、『子どもの頃から哲学者』(大和書房)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマ―新書)、『ほんとうの道徳』(トランスビュー)、『愛』(講談社現代新書)など多数。

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