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落語とは何か~本当は知られたくない桃源郷~     【後編】「なくても生きていける、は大ピンチ」

春風亭一之輔インタビュー

春風亭一之輔
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人気と実力だけなら順位付けは難しいが、そこに「将来性」を加味したならば、今、全国で800人いるといわれる落語家の中で、この人は随一だろう。42歳の春風亭一之輔である。50代でも若手と言われる世界にあって、40代は本人いわく「まだぺーぺー」。来年、芸歴20周年を迎えるが、まだこれからの落語界の至宝である。

一之輔の持ち味は、落語の王道とでも言うべき「滑稽話」。ばかばかしい話を、これでもかというほどばかばかしく演じながらも、人間の愛らしさを浮かび上がらせ、どこかほろりとさせる。対照的に涙を誘う「人情噺」はさらりと演じ、聴く者の心に江戸の粋と、爽快感を残す。そんな飄々とした一之輔に今回は、もっとも難しいというよりは、もっとも答えたくないだろうテーマをぶつけてみた。落語とは何か──。第一声は、予想通りの答えだった。「そんなモノを考えて生きてないんで」。それでも、しつこく聞いた。

(【中編】より続き)

 

 

 

落語をタダで見せる怖さ

──定席と呼ばれる寄席(上野鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場)が4月4日から休館となり(現在は入場制限をしつつ再開している)、その約2週間後、4月17日に「一之輔チャンネル」がユーチューブで開設されました。正直、驚きました。あの一之輔が、ユーチューバーデビュー? と。

一之輔 ああ、そうでしたっけ。デビューってほどのもんじゃないですけど。ユーチューバーっていっても、ただ落語を流してるだけですからね。ユーチューバーとは言い難いと思うんですよ。でも、まあ、YouTubeをやってるからそうなのかな。

──どういう心境の変化があったのでしょうか。

一之輔 思いつきですよ。最初、急に休みが増えて嬉しかった。それまで、ずっと休んでいなかったので。血色もよくなってきて。でも一週間が過ぎ、二週間が経ったあたりで、どっかでしゃべりたいな、と。落語は人前でやらないと、確実になまっていきますからね。

──よくできるものだな、という気がしました。落語はずっとテレビには向いてない演芸と言われ続けてきました。なので、そもそも動画配信は分が悪い。もし、落語界のトップランナーである一之輔師匠がユーチューブで落語を配信し、おもしろくないと判断されたら、それは「一之輔=つまらない」ではなく「落語=つまらない」と思われてしまう。幸いにも落語界初といっていいほどの大成功を収めましたが、リスクが大き過ぎたと思うんです。

一之輔 もう二百万回再生ぐらいいってるのかな。あんま、考えてやったわけでもないんですよ。やることねえしな、って。でも、よく考えたら、そうですよね。ただね、タダで見せるということに対しては、ものすごく怖さがありました。でも、大勢の人に見てもらうならタダが一番いいんですよね。かといって、課金制を否定するつもりもない。どちらも正解だと思うので、今後も、どちらもやっていきたいと思っているんですけど。

 

──ある日のツイッターで、フォロワーからちょっと噛み付かれたときに「やりたくてやってるんだけど、やりたくてやってるわけじゃねえんだよな」とつぶやかれていました。これが本心なんだなと思いました。

一之輔 本来はやらなくていいことだと思うんですよ。ライブには絶対、勝てないわけで。向いているとも思わないし。何でもないときにユーチューブをやって、お客さんにどんどん来てくださいみたいなガツガツ感は僕にはあんまりない。でも、コロナでこうなってしまった以上、お客さんも出かけられない、芸人もしゃべる場所がないっていうのを考えると、やらざるを得ないんですよ。

──配信を見ていると、笑いつつ、それ以上にグッときてしまうんですよね。それは本来、噺家が望んでいることではないのでしょうが、この危機に、あの一之輔が、なりふり構わず落語界のために高座に上がって、客もいないのにこれだけの熱量でしゃべっているんだ、と思うと。

一之輔 ……ああ、そうですか。

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プロフィール

春風亭一之輔

落語家。1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。寄席から全国各地の落語会まで年間900席以上もの高座をこなしながら、ラジオ・雑誌ほかでも活躍。

 

 
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