対談

宮治「落語は『見たい』と思わせられたら勝ち」一之輔「抜擢真打は選んだ方にも責任」

春風亭一之輔×桂宮治

宮治のとんでもないスピード受賞

──話は変わりますけど、宮治さんは二ツ目に昇進した最初の年にNHK新人演芸大賞(落語部門)を受賞されました。とんでもないスピード受賞でした。一之輔さんですら、二ツ目になってから受賞までに7年かかっています。受賞までの時間が実力のすべてを表しているわけではありませんが、あのときはどう思いましたか。
一之輔 早過ぎだろうと思いましたけどね。悪い意味でね。いい意味じゃなくて。かわいそうに、と。
宮治 みんなに言われました。
一之輔 みんな思うでしょう。獲るのに、いい頃合いってもんがあるんですよ。真打ちになるちょっと前とか。二ツ目時代って、長いですから。芸協(落語芸術協会)は抜擢はないみたいな雰囲気があるので、最低でも10年くらい続く。気の毒ですよ。

宮治 お世話になっていた先輩方には「すぐ忘れろ」って言われましたね。ただ、確かに辛かったですけど、あのお陰で兄さんと一緒に出させてもらったり、実力以上の仕事をする機会に恵まれた。今の自分があるのは、あのお陰だとも思っているんです。
──結果的に、そんな宮治さんだったからなのでしょうが、落語芸術協会も今までの慣例をやぶって、昨年、宮治さんを落語家としては29年振りに抜擢真打に推挙しました。入門順に昇進するという決まりを覆し、いわば協会が「未来のエース候補です」と特別扱いをしたわけです。一之輔さんもたどってきた道ですが、相応のプレッシャーがあるものなんですよね。
宮治 僕の場合は(通常の真打ち昇格時期と比べて)1年くらい早まっただけですから。(後輩を)21人も抜いた兄さんとは比較になりませんよ。
一之輔 僕の場合は3年、早まったのかな。
──やはりストレスはかかりましたか。
一之輔 正直、選んだ方が悪いんだからって思ってましたよ。やれることはやるけど、周りの人で盛り立ててくれよ、って。プレッシャーがないことはないけど、選んだ方にも責任はありますから。
──気持ちの逃げ場をつくらないと、やっていけないところもあるんでしょうね。宮治さんはどうですか。
宮治 僕の場合は、その1年前に(講談師の神田)伯山が(落語芸術協会から)抜擢で真打ちになっていたんで。落語家としては29年振りということでしたけど、協会としては、ちょっと二番煎じみたいなところもあって。嬉しいのと、悲しいのと、怖いのと、いろんな感情がごちゃまぜになっていたようなところがあったかな。

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プロフィール

春風亭一之輔×桂宮治
春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)

1978年、千葉県生まれ。落語家。日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きの抜擢で真打昇進。2010年、NHK新人演芸大賞、文化庁芸術祭新人賞を受賞。2012年、2013年に二年連続して国立演芸場花形演芸大賞の大賞を受賞。寄席を中心に、テレビ、ラジオなどでも活躍。

桂宮治(かつら みやじ)

1976年10月7日、東京都品川区出身。2008年2月、桂伸治に入門。2012年3月、二ツ目昇進。同年10月、NHK新人演芸大賞受賞。2021年、5人抜きの抜擢で真打昇進。「成金」メンバーでは三代目柳亭小痴楽、六代目神田伯山に続く、単独での真打昇進披露となる。2022年より日本テレビ系『笑点』の新メンバーに就任。

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宮治「落語は『見たい』と思わせられたら勝ち」一之輔「抜擢真打は選んだ方にも責任」