バラエティ番組がミッドフィルダーを量産する
──世の中的には、フットボールアワーのツッコミ担当・後藤輝基が出てきて、ツッコミへの評価が変わったと言われてますが。
塙 フットボールアワーはもともとボケがおもしろかったんですよ。そこに後藤さんのツッコミが加わって、さらに大きな笑いにつながった。南海キャンディーズの場合は、完全に山ちゃんのセンスだけで笑わせてますから。漫才界の革命児ですよ。ただ、テレビにおけるツッコミを変えたのは後藤さんでしょうね。要するに天才ミッドフィルダー。いいパスも出せるし、自分で点を決めようと思えば点も決められるという。後藤さんみたいなタイプが増えたのは、今の番組事情もあると思います。
──というのは?
塙 僕みたいなタイプは本当はボケっぱなしでいたいんです。でも、僕が松本さんや、くりぃむしちゅーの有田(哲平)さんの番組に出たとして、ボケの大先輩でもあるこの二人の強力フォワードは絶対に下がってくれないじゃないですか。彼らのボケを生かすためにも、こっちが下がるしかない。松本さんや有田さんにいいパスを出せないと、僕らはフューチャーされないんです。もしくは、ロバートの秋山(竜次)さんみたいに強烈なキャラをつくるかですね。素でいったら、出してもらえませんから。番組って、本当にチームみたいなもんで、バランスが大事なんです。有吉(弘行)さんという点取り屋のいる番組には、有吉さん好みのパサーばっかりいるじゃないですか。ノブシコブシの吉村(崇)君とか、サバンナの高橋(茂雄)さんとか。強力なフォワードがメインを張ってるテレビに出るためには、みんなミッドフィルダーになるしかないんです。陣内(智則)さんとかもそうですよね。たまに点も取れますよ、っていう感じのミッドフィルダー。今のテレビ業界は、松本さんを筆頭に「スターボケ」の層が厚い。未だに松本さんを中心に日本代表が成り立ってるみたいなところがありますから。
──世代交代の兆しはないんですか。
塙 サッカー選手には引退がありますけど、芸人は引退してくれませんから。こんな時代だからこそ、フランス代表のエムバペ級のボケが出てきたら、ぞくぞくするんですけどね。天竺鼠の川原(克己)君は出てきたとき、そういう雰囲気がありましたけど、いまいち点が取れずに悩んでますよね。誰もパスしてくれないんですよ。今の時代はボケしか言いませんみたいな昔ながらのやつが1人いると、ちょっと空気の読めないやつになっちゃう。川原君には、もうちょっと下がってでもパスをもらいにいった方がいいんじゃないかなと思いつつも、でもあのままいって欲しいなという思いもあるね。昔は、松本さんも、(明石家)さんまさんも、ボケしかやってこなかったわけですから。野性爆弾のくっきーさんはボケ一本でやってきて、でも最近は少しずつパスを出してくれるようになって、ようやく認められてきた。最近では、珍しい例じゃないですかね。
プロフィール
芸人。1978年、千葉県生まれ。漫才協会副会長。2001年、お笑いコンビ「ナイツ」を土屋伸之と結成。2008年度以降、3年連続でM-1グランプリ決勝に進出する。漫才新人大賞大賞、お笑いホープ大賞大賞、NHK新人演芸大賞大賞、第9回ビートたけしのエンターテイメント賞 日本芸能大賞、浅草芸能大賞新人賞、第10回ビートたけしのエンターテイメント賞 日本芸能大賞、第68回文化庁芸術祭大衆芸能部門優秀賞、浅草芸能大賞奨励賞、第67回芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞など、受賞多数。集英社新書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』、8/9発売!