自衛官や島民が真っ先に犠牲になる想定を報じないメディア、それを無知ゆえに認めてしまっている日本国民
敵が攻めてくる、敵が攻めてくると言うことに
何で国民は乗りやすいのか
三上 映画の冒頭のところでJアラートを流しているんです。実際に与那国で繰り返しスピーカーから流された「北朝鮮が○○○○と見られます」という北朝鮮の何が来たのかよく分からないアナウンスを。あれが夜中に流れたときの不穏な感じ。
Jアラートは2023年を象徴する音だと思うんです。2022年も流れているけど。2023年、これを聞いたら「本当に脅威が迫ってきているんだ、生活つらいけど、軍事費は安心のためには仕方ないんじゃないか」と思わされてしまう。すると、軍事費がちゃりんちゃりんと入る。与那国の近くの経済水域にミサイルが落ちました、とか、住民が避難している映像とか、たった20人しか参加していないミサイルの避難訓練の映像が全国で何十回流されたか。NHKが特にそうなんですけど、民法もバラエティー番組でもいっぱい流していたんですよ。あれを見たら、「やっぱりアメリカ軍にいてもらわないとね。やっぱり与那国の人たちが逃げるんだったら、逃げるお金は出してあげないといけないわね」という形で乗ってしまう。でも、実際に戦争になったとしたら狙われるのは沖縄や先島だけの話じゃない。もしかしたら、あなたたちの地域が先に攻撃されるかもしれないんですよ!って、私は全国でずっと言っているんです。
何もおはじきじゃないんだから、仮に相手からすれば沖縄を最初に狙って、最西端の与那国から東へ順番に取っていかなきゃいけないルールなんてないんですよ。防衛研究所の高橋杉雄さんが出した統合海洋縦深防衛戦略というものがあるんですけど、それは沖縄の島々を使って時間稼ぎをするという戦略なんです。EABO(遠征前線基地作戦)といってアメリカ海兵隊が、私たちの住んでいる四十の島々を縦横無尽に使って、小回りの効く海兵隊の小さな部隊で持ち運びやすい地対艦ミサイルとか地対空ミサイルを持って撃ったら違う島に逃げて、というのを繰り返すのです。違う島に移るのはすぐに敵の反撃を受けてしまうから。発射地点ですぐにばれますからね。だから軍隊が島を行き交うし、無人発射装置を置いたりもします。でも、そんな作戦の下で、逃げられなかった沖縄県民はどうなるんですか?という悪夢のような作戦なんです。防衛省はそれを理解した上で、アメリカ軍と一緒に演習をしている。
だから、こういう状況になって、Jアラートで脅かして、軍事費を上げても、もし何かあったとしても被害を受けるのは南西諸島なんでしょうということで、日本人はすっかりだまされていると私は思います。だから、沖縄が先に犠牲になるようなふうに話をごまかしている。防衛省の関連地図を見たら、九州から南しか描いていないですからね。本州は関わってもいないという体(てい)ですから。そういう地図ひとつとっても、かなり誘導している、印象を刷り込んでいると私は思うんですよ。
福元 多くの記者の書く記事を見ると、「中国の脅威に対して防衛省は何々」と、当たり前のように中国脅威や台湾有事があたかもあるという防衛省の想定をそのまま肯定したもので、それは具体的に何なのか?ということを一切書いていない。単純化された短い言葉で、「台湾有事に備え、防衛省は何日に何々をやった」というようなことが書かれている。その前提自体に疑問は抱かなくなっているのを見ると新聞記者も追いやられていますね。短い言葉で単純化されることの恐ろしさです。
PAC3(地対空誘導弾パトリオットミサイル)でいえば、例えば、日本全国でPAC3は配備されているのですが、たまたま未配備だった宮古、石垣、与那国にも配備したのですね。それで何かあったら、Jアラートが鳴って、島々に記者を置いたNHKが、マスターカットといって番組を途中で中断して生放送を始めるわけです。「まさにここが戦場なのか」とみんなその放送を見るんですけど、実際には北朝鮮が打ち上げた「飛翔体」は宇宙空間に行っているわけですよね。つまりそれが落ちてくることはまずないわけです。もしも落ちてくるとしたらそれは意図的に狙うわけですね。でも、意図的に狙うのがなぜ東京じゃなくて人口の少ない与那国島なんでしょうか? 意図的に狙うのだとしたら、もっと人の多いところを狙うのではないか?と普通に疑問がわきます。しかも、最終的に実際に飛んだのは沖縄本島と宮古の間なんですよね。
じゃ、なぜ与那国ではなく沖縄島の糸満市役所を取材しないんだと。飛行ルートから考えれば糸満市役所のほうが危ないんじゃないか。しかし、それを沖縄タイムスで議論しても、なかなかぴんと来てくれなくて。「あの人変なこと言ってるな」という反応でした。そもそもそれが仮に脅威だというなら、飛行ルートに近い糸満市役所にはなぜ危機対応を担当する人を置いていなかったんでしょうか? 遠く離れた与那国島の役場にはいるのに。結局、それは、北朝鮮のミサイルに対策が必要なんだと皆にすり込んで、防衛費を二倍にしなければいけないということを防衛省が国民に認めさせる、そのための配備なんじゃないかなと思うわけです。
三上 今、報道が目詰まりを起こしていますね。与那国島についていうと、先島が島外避難区域にいつの間にか指定されてしまいました。私たちの住んでいる沖縄島は屋内避難。どうやって屋内で助かるのかなという疑問もあるけれど、一方、宮古、石垣、与那国は武力攻撃予測事態になったら、1700人、与那国の人は1日で出なければいけないんです。そして、武力攻撃予測事態であるかは政府の決めることなんですね。
島民からしたら1日で馬も牛も置いて出るということって考えられないし、暴論も暴論だと思うけれども、現状の計画ではそうなってしまっていて、それがどれだけ悔しいことか。怖いし、あり得ないし、うそだろうって嘆き悲しむ住民がいる地域があるということがニュースじゃなくて何がニュースなんですかと思うんです。先島が島外避難区域になってしまったということで、自分のところが戦場にされるんじゃないかと思って生きている人たちがいる。それが全国ニュースの中に出てこないんですよ。もう、報道が壊れている。
みんながバズるニュースばかり見ていて、記者も現場にも行かず、検索されやすいワードだけを散らしたニュースばかり書いて、受け手も、そんなニュースを見ていて。ヤフーニュースに上がらないとニュースとして存在していないような状況だと、まともな記者が日本で育つはずがないというのは心配し過ぎでしょうか。
「与那国の人たちの命は日本で一番軽んじられている」
三上 映画の主人公は与那国のウミンチュ(海人)なんです。筋金入りのウミンチュのおじいがカジキと格闘するという一つのストーリーが縦糸になっていて、彼がカジキにリベンジをするんですよね。詳しいことは言えないけど、自分の人生を肯定するためにリベンジをする。彼は自衛隊には反対だったり賛成だったり、揺れ動く人です。でも、普通の人はそうやって揺れ動きますよね。自衛隊が来たらいいことあるよって言われたら、「そうね」ってなるし、「あれが来るから戦争が起こるんだよ」って言われたら、「じゃダメさ」ってなるし。自分のイデオロギーを持って自衛隊のことを考えている人なんて、ほとんどいないですから。だから、揺れ動くのが当たり前のありようなんだけれど。それで、この島から出ていかなければならないような戦争が迫っているということをひしひしと感じながらも、このおじいは自分の人生に決着をつけるために海に再び挑んでいくという話なんです。
福元 島では自衛隊問題に関して、自分はこっちだと言って反対向いたら、家にロケット花火を撃ち込まれた、という嫌がらせを受けた人がいたんですが、「島で暮らしていると長いものに巻かれる強さというのが必要なときがあるんだ」といっていましたね。
三上 強さ? 弱さじゃなく?
福元 強さと言うんですよ。弱さって言わないんですよ。島が変わるということに対して、すごく強い人間じゃないと、あっち(反対する側?)には行けないんだ。自分は弱いからこっちにとどまっている」というような言い方をして。これは本当に島に住んでいる人にしか分からない感覚なのかなと思いました。
三上 与那国島の畜産業の男性が最後の方にぽろっと言うんですよね。「与那国の人たちの命は日本で一番軽んじられている」って。でも、同時に、宮古、石垣、与那国に今張りつけられている自衛隊員は、あの沖縄戦を展開した日本軍第32軍と同じぐらい見捨てられた軍隊になっている可能性が高い。有事になって南西諸島が攻撃されたら? まず上からミサイルで上陸した敵をたたいて、それをまた離島奪還作戦の中で水陸移動団が来るという順番でずっとこの8年、演習をやっているわけですよ。でも彼らは最初に死ぬし、全滅するでしょう。
だから、あそこに今いる自衛隊の方々は家族と一緒に来たり、単身で来たり、島の人たちとうちとけ合えるかどうか、嫌がられないだろうかと言ってね。もちろん自衛隊のプロパガンダの一環でいろんな協力もするかもしれないけど、全然そうじゃない真心でやっている人もいる。この映画を見たら分かるとは思うんですが、そうやって一人の人間として、裸の心で彼らが家族と一緒に島の人たちと仲良くやろうという姿とかを見たときに、この人たちが真っ先に死ぬ運命を許してしまっている大多数の日本国民の存在があります。知らないとはいえ許してしまっているということに気づかないといけないのですよね。(了)
プロフィール
(みかみ ちえ)
ジャーナリスト、映画監督。毎日放送、琉球朝日放送でキャスターを務める傍らドキュメンタリーを制作。初監督映画「標的の村」(2013)でキネマ旬報文化映画部門1位他19の賞を受賞。フリーに転身後、映画「戦場ぬ止み」(2015)、「標的の島 風かたか」(2017)を発表。続く映画「沖縄スパイ戦史」(大矢英代との共同監督作品、2018)は、文化庁映画賞他8つの賞を受賞。最新作「戦雲」(2024)が全国公開中。著書に『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社新書、第7回城山三郎賞他3賞受賞)、『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』『風かたか「標的の島」撮影記』(ともに大月書店)などがある。
(しま ようこ)
琉球新報社取締役 統合編集局長。1967年沖縄県美里村(現沖縄市)生まれ。
1991年琉球新報社入社。政経部、社会部、中部支社、経済部、政治部、東京支社報道部長などを経て、2022年、編集局長。米軍基地が沖縄経済の発展を阻害している側面を明らかにした連載「ひずみの構造-基地と沖縄経済」で、2011年「平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞」を受賞。著書に『女性記者が見る基地・沖縄』(高文研)、三上との共著に『女子力で読み解く基地神話』(大月書店)等がある。
(ふくもと だいすけ)
沖縄タイムス編集局 政経部長兼論説委員。1977年生まれ。信州大学卒業。宮古毎日新聞で記者を務めた後、2003年沖縄タイムス入社。沖縄県警キャップ、八重山支局長、米軍基地・自衛隊問題担当などを経て、2023年から現職。