対談

自衛隊海外派遣の30年は「嘘」と「隠蔽」の歴史だった!?

望月衣塑子氏×布施祐仁氏対談《前編》
望月衣塑子×布施祐仁

「死を意識した」という自衛官のことば

布施 それと、もうひとつの大きなきっかけになったのは、この本の冒頭にも紹介しているんですが、実際に現地に派遣された自衛隊員の方に会ったことです。その方は僕よりも若いんですが、彼は現地である場面に遭遇して「死を意識した」と言っていたんです。

「自分自身は訓練を積み重ねていたので、そんなに『怖い』という感情は無かったけれども、ふと、『遺書を書いてこなかったな』と思って。それで、親の顔を思い浮かべた時に涙が出てきた」という話をしてくれました。

ジャーナリスト・布施祐仁氏

自分より若い自衛隊員が現地でそんな思いをしていたことに衝撃を受けたし、すべての国民が知らなければいけないことだと思いました。

こういう事実を国民が知らないまま、「ああ、非戦闘地域で安全だったんだ」「1人も死なずに成功だったからもっと自衛隊を送りましょう」というのは、やっぱり違うんじゃないかな、と。

望月 そうですね。……でも、その自衛官の方の告白って、政府からすると隠したいような発言だと思うんですけど。この本には、その人以外にも自衛官のインタビューがたくさん載っていますが、彼らとはどうやって接触したんですか?

たとえば私が防衛省に申し込んでも、ほとんど紹介してくれませんでしたから、現場の自衛官の声というのをこれだけ集めているというのも、この本を読んですごくビックリした点です。それはどうやって?

布施 他のテーマの取材で出会った人が、実は元自衛官だったり……。そういう偶然の出会いとかもありますね。

この本では、南スーダンとカンボジアとゴラン高原、そしてアフリカに派遣された部隊の元隊長にインタビューをしていますが、そのうち3人は陸上自衛隊に正式に取材を申し込みました。

断られたら断られたで、それも本に書こうと思ってダメ元で正式に申し込んだら、意外にもインタビューをセッティングしてくれた、という(笑)。

望月 意外にも(笑)。それは南スーダンの日報隠蔽(いんぺい)問題を布施さんが明らかにした、と騒がれた後ですか?

布施 後ですね。だからダメだろうな、と思いながら取材申請したんです。

布施氏と朝日新聞記者・三浦英之氏の共著『日報隠蔽』(集英社文庫)

望月 名前を聞いただけで拒否反応されてもおかしくないくらいですよね(笑)。

でも逆に、彼らからすると、自分たちが派遣先の国で経験した本当の事実を国民が知らないまま、どんどん「派遣できます」って言っている日本政府を、ある意味、危ないなと思っていたんでしょうかね。

「自分たちが言えないことを布施さんが代弁してくれる」という期待があったのかもしれませんね。

布施 そうだと嬉しいですけどね(笑)。

望月 そこがやっぱりすごいなあと思って。あの南スーダン日報問題でも、初めは稲田防衛大臣が否定していましたよね。「そういうものは無い」と。

でも、次々にいろんなことが明るみになり、実際に日報の文書が出てきて……政府、防衛省、自衛隊が一枚岩じゃないな、ということがわかりました。

布施 そうですね。特にあの南スーダン日報隠蔽では全部、陸上自衛隊に責任が押し付けられようとしたわけです。

何かトラブルがあると、森友事件なんかもそうですが、ひとりの人に責任を負わせて、上の人間を守るということがあるじゃないですか。

南スーダンの時は、それこそ安倍政権を守るために、責任を陸上自衛隊に押し付けるという流れがあった。でも陸上自衛隊としては「ふざけるな」ということで、いろんな情報が内部からリークされました。それで結果的には稲田防衛大臣が辞任に追い込まれたわけです。

望月 稲田さんの辞任まで行ったと。

布施 実際に隠蔽をして、日報が「無い」と言ったのは陸上自衛隊なんですけれども、そもそも陸上自衛隊が隠蔽しなくてはいけなかったのは、なぜか? 

本来なら、隊員が命懸けで活動している自衛隊としては、「現場でこういう危険な状況があった」ということを、国民にちゃんと知ってほしいと思うはずです。実際に、僕が取材した南スーダンPKOに派遣された隊員の方はそう言っていました。

でも、日本政府が「南スーダンでは戦闘も武力紛争も発生していない」と言っている手前、自衛隊も本当のことを言えない。

「戦闘があったと言ってはならない」ということになって、結果として「戦闘」の二文字がたくさん登場する日報を隠さざるを得なかった。そもそもの原因を作ったのは政治なわけです。

そういう意味では、「陸上自衛隊だけに責任を押し付けるのは違うだろう」ということを、僕は最初から言っていたので……。そのあたりがもし、今回の取材許可に繋がったのだとすれば、良かったなあと思いますけど(笑)。

それに、僕は法律に基づいて情報公開請求を行っただけですので、それを理由に取材に応じないのはそもそもおかしいですよね。

情報公開請求で8万枚の文書を集めた

布施 この本は、今年の6月でPKO法が制定されて30年の節目になることもあり、この30年間の自衛隊の海外派遣を総検証したんですが、基本は情報公開請求を使って入手した自衛隊の記録をベースにしています。

これは当然ですが、自衛隊の海外派遣部隊は毎日、「日報」などで現地の正確な情報を日本の上級部隊に上げています。

日報だけじゃなく、任務が終わって帰ってきてからも、その総まとめの報告文書とか、いろんな報告文書を上げていて、そこにはリアルで正確な事実が書いてある。なぜなら、そうしないと日本にいる上級部隊の司令官は的確な判断が下せないからです。

だから、「それをもとに検証したら真実に迫れるんじゃないか」と思って、情報公開請求を使って。トータルで13年ぐらいかけて、3500ファイル、枚数にして8万枚ぐらいの文書を収集して、それに基づいて検証したのがベースなんですよね。

望月 8万枚……。

布施 アジア太平洋戦争についても、日本軍が作成した日報や戦史が膨大に残されていて、それらを活用して様々な検証が行われてきました。それと同じことを、自衛隊の海外派遣についても試みたわけです。

それに加えて、資料で明らかになったことを裏付けたり補強するために、実際に現地に行った自衛官の人にも取材をしました。

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プロフィール

望月衣塑子×布施祐仁

 

望月衣塑子(もちづき いそこ)
1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞社に入社。関東の各県警、東京地検特捜部を担当し、事件取材に携わる。経済部などを経て社会部遊軍記者。2017年6月から菅義偉官房長官(当時)の会見に出席し質問を重ねる様子が注目される。著書に『新聞記者』『武器輸出と日本企業』『同調圧力(共著)』『報道現場』(角川新書)、『自壊するメディア(共著)』(講談社+α新書)、『権力と新聞の大問題(共著)』『安倍政治 100のファクトチェック(共著)』(集英社新書)など多数。

布施祐仁(ふせ・ゆうじん)
1976年、東京都生まれ。ジャーナリスト。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』(岩波書店)で平和・協同ジャーナリスト基金賞、日本ジャーナリスト会議によるJCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(集英社)で石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』(岩波書店)、『経済的徴兵制』(集英社新書)、共著に伊勢﨑賢治氏との『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(集英社クリエイティブ)等多数。

 

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