対談

「コミュニケーションが難しい」のは「思い込み」のせい?【前編】

『絶対に後悔しない会話のルール』刊行記念対談
𠮷原珠央×安達裕哉

コロナ禍を経て、対面のコミュニケーションが再び戻ってきたいま、会話の悩みを抱えている人は多いのではないか。

2023年9月に刊行された『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)は、『自分のことは話すな』『その「言い方」は失礼です!』(幻冬舎新書)などのベストセラーを記したコミュニケーションコンサルタントの𠮷原珠央氏が、会話における躓きや、それらを避けるための方法を指南した一冊である。

 
今回の記事では、𠮷原氏がオウンドメディア支援事業をおこなうティネクトの代表取締役であり自らもビジネスメディアBooks&Appsを運営する安達裕哉氏と対談。安達氏は今年の4月に『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)を刊行し、同書は現在(9月27日)までに30万部を突破している。

 
コミュニケーションのプロフェッショナル二人が考える、日々のコミュニケーションの悩みを少なくするための考え方とは?



安達裕哉 氏(左) 𠮷原珠央 氏(右)

“怖そうな人”を攻略する「ちょこっとアクション」

安達 新刊を読ませていただいて、書かれていることの本質は、私の本と全く同じだと思いました。加えて、前職のコンサルティング会社で習ったことがいくつも書かれていて、びっくりしました。

𠮷原 わあ、うれしいです!

安達 例えば線を引いたのはこの2つです。1つは「ちょこっとアクション」。自分から一言話しかけたり、挨拶をしたり、相手よりもにこやかに笑ってみたり……といった、ちょっとしたアクションが会話のきっかけになったり、新しい変化をもたらすと書かれていて、本当にそうだなあと。実は前職のとき、「シンプル仕掛け」を作ったんです。社員研修なんかをしても、なかなか社員の行動が変わらない。取っ掛かりになるようなことがないかと、クライアント企業の社長によく相談されたんですね。で、すぐにできる簡単な行動をパッケージ化して、それを「シンプル仕掛け」と呼んでいました。その考え方と、「ちょこっとアクション」はとても似ていると思いました。

𠮷原 トーマツ(デロイトトーマツコンサルティング)でキャリアを積んでこられた方にお墨付きをいただけて、うれしいです。

安達 まずはこちらからアクションをとる。コミュニケーションの神髄って、「やってみないとわからない」なんですよね。

𠮷原 ほんとうにそう。待っていても何も起きないですからね。

安達 線を引いたもう一つが、「話してみると結構いい人だったりする」という主旨のところで、これも前職で実感したことです。コンサルティング会社って、大企業だけじゃなく、中小企業もお客様で、全国津々浦々、いろんな企業を訪問するんですよ。で、この社長、めちゃくちゃ取っつきにくいな、ってことがありました。社長室にトラの絨毯が敷いてあって、見た目もいかつくて、この人、怖そうだあなって身構えるんだけど、いざ話してみると、「社員のことが心配で心配で、夜眠れないんだよね」っていう優しい人。

 こういうことってよくあると思うんですが、𠮷原さんの本では「思い込みがコミュニケーションを台無しにする」と的確に説明されていて、勉強になったし、面白く読みました。

𠮷原 ありがとうございます。相手に対して、怖そうだなとか冷たそうだなとか、私のことを嫌いだろうなと感じてしまったとしても、自分からワンアクション起こすことが大切ですよね。そのとき、「褒める」といったハードルの高いことでなくても、いつもより20センチ深くお辞儀をするだけで誠意が伝わる場合もある。コミュニケーションにおいては観察のみならず、反応や表現までが大事ということを、この本には書かせていただきました。

𠮷原珠央 氏

アピールしなければ仕事は来ない 「アピール=自慢」から脱却しよう

安達 さきほどの𠮷原さんの「待っていても何も起きない」という言葉も、とても響きました。というのは、私、新卒で入った会社の同期の中で、プロジェクトに配属されるのが一番遅かったんです。今振り返れば、口の利き方がなってないとか、相応の理由があったと思うんですが、当時はまったくわからなくて、半年くらいたった頃かな、耐えかねて、上司に直談判しに行ったんです。「仕事がないなら辞めます」って。そうしたらようやく仕事をくれまして、そこから怒涛のような日々が始まったわけですが。

𠮷原 それもちょこっとアクションですね。

安達 まさに。コミュニケーションの不足って、周りから指摘されないものですよね。だからこそ自分から、「仕事をください」「足りないところがあれば直しますから」と、アクションを起こすことが大事。

𠮷原 実はその話には、会社が安達さんに大きな期待をかけていたから、あえて仕事を与えないようにしていた、という裏話があるとか……?

安達 全然ない(笑)。後で聞いたら、忘れてたわ、みたいな軽い感じでした。

𠮷原 (笑)。なおさら言ってよかったですね。日本人は、「相手の出方を待つ」という態度をとりがちだと思います。私のクライアントさんの話なんですが、彼が不動産を購入しようとしたとき、営業担当者がものすごく気を遣う人だったそうなんです。良く言えば上品なんだけど、なかなか話が進まない。売る気があるのかないのかわからない、って愚痴っているのを聞いて、自分にも思い当たる節があるなと思いました。

 私も以前は、アピールが苦手でした。「アピール=自慢」「アピール=品がない」「アピール=ガツガツしてる」などと捉えていて。でもある時、「アピールしなければ仕事は来ないよ」と言われて、ハッとしました。「アピール=相手の役に立つ提案」と切り替えてから、自分の経験や実績を、スラスラ言えるようになったんです。これもちょこっとアクションだったなと思います。

安達 「遠慮」って、日本では美徳と思われがちですが、相手のニーズを満たしてないということがあるんですよね。とはいえ「仕事ください」って言いにくいのはわかります。怖いですもんね。

𠮷原 はい。断られたらショックですし……。だから打たれ強くなることも大事で、そのためには、日頃からちょこっとアクションを習慣にすることが大事だと思います。

安達 本当にそうですね。今日、この対談の前の仕事で、「面接で賢そうに見えるにはどうしたらいいでしょうか?」という質問を受けたんです。私の回答は「回数をこなすこと」なんですが、失敗したくない人は、「絶対に失敗しないベストプラクティス」を知ろうとする。それはあまりよくないと思っています。やっぱり打席に立ってバットを振らないと。

『絶対に後悔しない会話のルール』𠮷原珠央(集英社新書)

ズルい自己紹介とは?

𠮷原 どうバットを振ったらいいか、というコミュニケーションのヒントが安達さんの本には書かれているわけですが、安達さんの本の何がすごいって、爽やかなんです。押しつけがましさもなければ、プレッシャーも感じない。こんなにも清々しいビジネス書を読むのは、初めてでした。

安達 ありがとうございます。失敗談から始まっていますから(笑)。

𠮷原 はい。冒頭の自己紹介の仕方、ズルいです(笑)。安達さんの人柄がにじみ出てて、こんな書き方があるんだと驚きました。経歴だけ見ると安達さんって、コンサルティング会社で、頭のいい人とバリバリ仕事をされてきたエリートというふうに、私も含めて読者の方は思われると思うんです。だけど読み始めると、上から目線が一切ない。言葉がすっと入ってくるんです。

安達 本を書くときに心がけたのは、わかりやすいこと、身近であること。それから、「上から目線」は、もっとも読む気を削ぐので、そうなっていないか、編集者とかなり議論しました。

𠮷原 私、自分の本は怖くてアマゾンレビューを読まないんです(笑)。けれど、安達さんの本のレビューは読ませてもらったら、多くの人が私と同じように感じていて、そうだよね、って。気持ちいいんですよ、言葉が。やっぱりそれは、安達さんの頭の良さであると同時に、日頃から気配りをされていたり、謙虚であったりという人柄ゆえの言葉選びだと思いました。それからこの本は、タイトルに付いている「頭のいい人」になれるというよりは、こういうふうに人と接すると、どんな状況でもうまくいくよ、というやり方を端的に、わかりやすく伝えてくれる本だと感じました。

安達 ありがとうございます。

𠮷原 安達さんの本はエピソードが豊富なのも素晴らしいですよね。中でも家具屋のエピソード、好きなんです。お客様から、届いた食器棚の引き出しに小さな傷が付いているというクレーム電話かかってきた。でも、在庫がない。「今すぐもってこい!」と激高するお客様にどう対応したか、という。あれ、本当の話なんですか?

安達 実はあれは、担当編集者のエピソードなんです。

編集・淡路 僕は新卒でニトリに就職して、店舗で接客やクレーム対応を死ぬほどやっていました。安達さんとコミュニケーションについて議論する中で、「人と闘うな、課題と闘え」というポイントが出てきたとき、これは10年前のあのエピソードのことだ! と、腑に落ちたんです。

𠮷原 なるほど。淡路さんのエピソードを、安達さんが上手に料理されたんですね。

編集・淡路 もちろん安達さんのエピソードも聞き出しました。ただコンサルティング会社には、良いイメージを持っている人もいるけれど、そうじゃない人もいる。だから安達さんのエピソードを聞くときは、「家族の話ください!」「失敗談ください!」ばかり言ってました。

安達裕哉 氏

ベンチマークしたのは、あの大ベストセラー

安達 「家族の話ないですか」と淡路さんにめちゃくちゃ聞かれて、オビに載せた、妻とのエピソードがでてきたんです。妻は何でも私に聴いてくるんですよ。

𠮷原 頼られてるんですね。

安達 買い物中もしょっちゅう「どっちの服がいいと思う?」って。最初は「白がいいんじゃない」とか、いちおう真面目に答えていたんですけど、だんだん適当に答えるようになっていったら怒られた(笑)。淡路さんがこのエピソードを気に入ってくれたので、「青い服と白い服、どっちがいいと思う?」と聞かれたときにどう答えるべきか、という問いを本に入れました。

𠮷原 安達さんの青い服と白い服のエピソードにちなんで、今日は白い服にしてみました。

安達 そうだったんですね! ありがとうございます。

𠮷原 ほかにも「七五三の貸衣裳をどれにすべきか」という問いからは、相談をもちかけられたときは「アドバイスではなく交通整理せよ」という解を導かれている。ポイントの落とし込み方が身近で、すぐに使えそうなものばかりです。

安達 それは𠮷原さんの本にも言えることだと思います。極論を言えばコミュニケーションには仕事用も私生活用もなくて、私生活で使えるコミュニケーションは、仕事でも使えますよね。

𠮷原 はい。だから、<身近な人にほど丁寧なコミュニケーションを心がけてほしい>ですよね。安達さんの本の「あとがき」に書かれている文章ですが、あの「あとがき」も、ぐっときました。安達さんの感情や人間性が伝わってきて。

安達 実は私の本、こんまり(近藤麻理恵)さんの本(『人生がときめく片づけの魔法』)をベンチマークにしてるんです。こんまりさんの本って、「ロジック」と「感情」が見事に折り重なっているじゃないですか。こういう本を作りたいね、って淡路さんと話をしていて。これまであまりバレてなかったんですが……ついにバラしてしまいました。

『頭のいい人が話す前に考えていること』安達裕哉 (ダイヤモンド社)

★コミュニケーションと片付けの共通点とは? 後編に続く

構成:砂田明子 撮影:内藤サトル

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絶対に後悔しない会話のルール

プロフィール

𠮷原珠央×安達裕哉

よしはら たまお

1976年生まれ。コミュニケーションコンサルタント。日本行動分析学会会員。ANA(全日本空輸株式会社)、証券会社、人材コンサルティング会社などを経てコミュニケーションを専門とするコンサルタントとして2002年にDC&ICを設立し、ビジネスパーソン向け研修、講演活動などを実施。著書に20万部ベストセラー『自分のことは話すな 仕事と人間関係を劇的によくする技術』『その言い方は「失礼」です!』(幻冬舎新書)など、多数。

あだち ゆうや

1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。 Twitter:@Books_Apps

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