日本人がまだ知らないBLMプロテストの実相

大袈裟太郎のアメリカ現地レポート④ ワシントンD.C
大袈裟太郎

 トランプ派の黒人男性との対話

 D.C.での近距離移動はレンタルの電動キックボードがもの凄く便利で手軽なのだけれど、初めて行く場所の移動にはUberTAXIを使うようになった。現在地や目的地を英語で説明することなく、アプリ上の地図をタッチするだけで迎車から降車までスムースに移動できるからだ。あるドライバーと会話している時、彼が黒人でありながらトランプ支持者だということがわかり、後日、話を聞かせてもらった。

 年齢は50代、前職が雇い止めになり、1年前にUberTAXIを始めたそうだ。彼はこのBLMムーブメントのなかでストレスが溜まっていたのだろう、堰を切ったように興奮して話し始めた。ただ、強い言葉、スローガンを繰り出すばかりで、あまりその言葉の根拠について説明してくれることがなかったし、追及すると怒りだしそうな気配があったので、うまく取材が成立しなかった。以下箇条書きにしてみる。

・中国と戦っているのはトランプだけだ。

・トランプは経済を好転させた。アメリカを復活させる。

・黒人への殺害は黒人同士の方が多い。

・プロテスターはジョージ・ソロスの資金提供を受けている。

・ALL LIVES MATTERだ(すべての人の命が大切だ)

 正直、あまりに日本のネトウヨと似ていると感じ、途中からゲンナリしてしまった。「黒人同士の殺害が多い」というのも、よくある論点ずらしで、この差別に起因した貧困構造が生み出しているものであるし、この7年で2000人近い黒人が警官に殺害され、99%の警官が無罪になっている現状とは分けて考えるべき問題だ(このような論点ずらしの手法はWhat about ismと呼ばれ、旧ソ連で流行したものだ)。

 ALL LIVES MATTERというのもこの頃、白人至上主義者が流行らせ始めたミスリードだった。すべての命が大事だからこそ、黒人の命もそれと同等であるべきはずである。このような表面上、真っ当に見えるメッセージで問題の本質を隠す手法も日本のネトウヨと酷似していた。

 さらにこの「ジョージ・ソロスの資金提供」という言葉を聞いた時、私のFBに寄せられたあるメッセージを思い出した。

 この頃、米国取材中の私のSNSに「BLMの取材なんかしてディープステイトの存在、についてはどう思うんだ? ジョージ・ソロスが資金提供しているんだ」という断定的なメッセージが多数寄せられていた(あろうことか日本の反安倍派のリベラル層からもだ)。

 なぜだろう、トランプ派の彼の話した内容と酷似している。沖縄の基地反対運動へのデマ、そして香港民主派へのデマも身を以て経験している私からすれば、すぐにピンと来る。コピーアンドペーストのような、判で押したような批判が市民へ向けられる時、その背景には必ず焚きつけている存在がいる。為政者のメリットになるように意図的にデマが流されているのだ。

(上記3点)D.C.は街中がメッセージとアートで彩られていた

 

 Qanonとスティーブ・バノン

 話を聞いたこの男性の「意見」の背景にあるのはQanonだと言ってほぼ間違いなさそうだ。Qanonとは2017年ごろに米国版の2ちゃんねるに相当する4chanへの「Q」という人物の投稿を元に始まった陰謀論を信望する者の総称だ。その陰謀論とは、実は米政府官僚のなかの「ディープステイト」という存在が多大な権力を握っており、民主党議員やハリウッドスターなどと共に悪魔崇拝や幼児性愛をおこなっている。これと闘うのがドナルド・トランプ大統領なのだ…というもので、SNSを中心としてカルト的に広がっている。

 そして現在、この層は狂信的にトランプ大統領を支えており、この陰謀論を信じた白人男性がピザ店で発砲事件を起こした事件もある。トランプ氏自体も彼らに対し、演説などで17(Qはアルファベットで17番目)の数字を強調するなど「匂わせ」を行い、彼らの支持を強固なものにしている。このQanonの背景には、先日逮捕されたスティーブ・バノンがいるとの情報があるが、その線は極めて濃厚だと私は考えている。

 トランプ氏の選挙の最高責任者、大統領就任後は首席戦略官として務めたバノン氏の前職は、ブライトバートという極右ニュースサイトの経営者である。思えばネット対策に長けたこのバノン氏の存在なくしてトランプ政権誕生はなかっただろう。彼らのネット戦略は巧妙である。フェイクニュースを駆使し、常に大衆の被害者意識、反エリート意識を刺激してくる。それは人々の心根にある確証バイアスに大きく作用する(確証バイアスとは心理学用語で、ある仮説や事実を検証する時に自分の意に沿った心地の良い情報ばかりを集め、多角的な検証を妨げてしまう状態。ネット空間で陥りがちな行動パターンである)。

 この結果、彼らはトランプを「エリートと戦う“持たざる者たち”の救世主」に仕立て上げることに成功したのだ。さらにQanonの陰謀論は現在、日本にも浸透しつつある。とくに旧来型エリート・リベラル層に不満を持つ野党支持層に広がっている。YoutubeにはQanonを支持する日本語の動画が星の数ほどあるが、これを批判する動画はほとんど見当たらない。個人的には警戒が必要な存在だと感じている。

ホワイトハウス前に集う人々

ひとりでメッセージを掲げる白人女性

マスクにフェイスガード、コロナ対策は万全だ

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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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