シアトル・CHOP自治区の終焉と大坂なおみが立ち向かう世界

大袈裟太郎のアメリカ現地レポート⑤ シアトル

大袈裟太郎

 世界中から押し寄せた誹謗中傷

 事件翌日、腫れてはいるが骨は折れていないことを確認し、僕はCHOPに戻った。取材も兼ねて、昨日、僕を殴った人物を探した。多くの人が僕の顔に貼った湿布を見て、どうしたの?と問いかけてくる。皆、心配してくれる人ばかりだった。オレゴンから車で駆けつけた白人青年と知り合う。彼は仕事の合間に車でこのCHOPまで来てボランティアをしている。日本のどういうメディアで記事を書いているの?と聞かれ、最近だと集英社のウェブだよとこの記事を見せると、「おお集英社! 知ってる! 少年ジャンプだよね!」と盛り上がる。意外な反応だった。思えばドラゴンボール、ワンピース、ナルトなどのTシャツを着てる人も多く、少年ジャンプも集英社もアメリカで伝わる日本語になっていたのだ。「コミック以外も出してるんだね!」なんて言われながら、その後、集英社の名前を出すと不思議な信頼を獲得できるようになり、取材がしやすくなった。

 10歳まで沖縄で育ったACというニックネームの黒人青年と出会った。彼の父が海兵隊員として沖縄に駐留していたそうだ。沖縄の美しさを彼は語ってくれたが、「それ以外はあまりいい思い出がない」と彼が言うので細かい詮索はしなかった。ボランティアスタッフである彼と意気投合し、CHOP内部を取材して回った。撮影禁止の調理場の様子など、まさに高江のN1裏テントそのものかというぐらいの雰囲気で懐かしくなった。昨日、僕を殴った人間は結局、見つからなかった。事件になるのを恐れてここを去ったのかもしれないとACが言った。彼と一緒に写真を撮り、このツイートをした。

「Im back. #CHOP これは暴力を肯定するプロテストではないということを証明するために。」

 しかし、これがロシアの実質的国営メディアであるロシア・トゥデイによって時系列を改竄され、「BLMが暴力的でないと証明しに来た日本人がCHOPで殴られた」と国際的に報道されてしまった。BLMを潰したい人間たちのプロパガンダに利用されてたのだ。

Japanese reporter goes to CHAZ to prove it’s peaceful, leaves within 15 min with BLACK EYE

https://www.rt.com/usa/492663-japanese-reporter-chaz-black-eye/

 これが「大袈裟太郎は射殺されればよい」などとつぶやいていた日本のネトウヨたちにも火をつけ、日本の有名な医者やIT企業経営者も、私を嘲笑するツイートして1日に1000件近い誹謗中傷が世界中から押し寄せた。大炎上となった。

僕の事件をトランプ大統領に伝えるものまで現れた

 さらにトランプ派のネオナチサイトまで私を攻撃し始めた。「I haven’t seen a nip get japped like this since Hiroshima! Y I K E S !」(日本人がぐちゃぐちゃにされたのは広島以来だぜ!)。ジャップという差別用語を使い、広島への原爆投下にまで言及し、私を人種差別の対象にしている。これはこの連載の第1回に書いた原爆投下と白人至上主義の関係性をリアルタイムで裏付けるもののように感じられた。やはり人種差別を利用し、人権を毀損し社会を不安に陥れているのはトランプ派であり白人至上主義者なのだということを深く理解する体験だった。

 そして何より、日本人である私が原爆投下にまでさかのぼり差別の対象にされることに対して、愛国者を自称する日本のネトウヨたちは抗うどころか同調したことに愕然とした。日本への愛国心を叫ぶ人々がいかに欺瞞に満ちた存在かを私はアメリカで体感したのだった。

 自分は完全に標的にされてしまった。顔はまだ腫れ、口を開けると激痛があったが、大袈裟太郎は実は殴られていないというデマまで拡散された。実際に殴られたことの痛みより、この自分を取り巻く無理解な環境から想定外のダメージを受け、疲弊していた。混乱していた。そんな気分は旧知の詩人、向坂くじらが書いたブログに救われた。今までの反差別カウンターやデマカウンターには無かった、爽やかに吹き抜ける風のような言葉が、日本からシアトルまで届いた。

現実を見ようとするとは。

大袈裟太郎さんに向けられた誹謗中傷への応答  向坂くじら

https://juju-rascals.hatenablog.com/entry/2020/06/24/201922

 標的にされたのは僕だけではなかった。その頃、CHOP自体も完全に標的にされていたのだ。前回書いたトランプのタルサ演説以降、CHOPの自治を破壊する動きは止めどないものになっていた。警察がすでに撤退した地域なのだ。その自治を潰すのは容易いことだっただろう。自治区内でレイプや強盗事件が発生し、深夜にはほぼ連日銃撃があったが、犯人は捕まらなかった。CHOPの自治が音を立てて崩れていくのがわかった。

CHOPの菜園

僕が殴られたことを知って、謝罪してくれた男性

「アメリカ・インディアン」の男性の姿もあった

調理場のテントは2016年の高江を思わせた

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プロフィール

大袈裟太郎

大袈裟太郎●本名 猪股東吾 リアルタイムドキュメンタリスト/現代記録作家。ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 
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