5月25日、ミネアポリスで起こった警官によるジョージ・フロイド氏殺害事件。この動画はSNSで爆発的に拡散され、これを機に、警官による黒人たちへの暴力と数世代に渡る差別構造の鬱積が、#blacklivesmatterとなって炎上、アメリカ全土、そして全世界へと広がるプロテストとなった。テニスの大坂なおみ選手やバスケットボールの八村塁選手らも、このプロテストに賛同し行動を起こしたことは報道され、日本でも広く知られるようになった。
事件後、ミネアポリス、ワシントンD.C.入りした現代記録作家・大袈裟太郎によるアメリカの内状レポートは、今回のシアトル編で一旦完結!
プロテスターへの銃撃が続くアメリカ。重たい足どりをひきずるようにデルタに乗り込み、ワシントンD.C.からアトランタで乗り換え、僕はシアトルへ向かった。アトランタからシアトルは5時間ほどかかっただろうか、アメリカ大陸の広さを改めて実感する。マウントレーニアがぽっかりと雲の上に顔を出している。日本ではコーヒーのブランドとして知られているあの山だ。どこか富士山にも似た神々しさを感じる。美しく雄大な山を崇める気分は、日本もアメリカも変わりがないらしい。
この山を聖地とするネイティブ・アメリカン、すなわちインディアンのある部族がこのレーニア山の名称を元の呼び名に戻すことを求めており、近い将来、「ティー・スワーク」山と改名される可能性があるそうだ。一体アメリカというのは誰のものなのだろう。奪い、奪われ、お子さまランチのように旗を立て今に至る。そもそも1492年にアメリカ大陸を発見したコロンブスは、この大陸をインドの一部と思い込んだまま死んでいったそうだ。よってネイティブ・アメリカンもインディアン(インド人)と呼ばれてきた。しかしこの一見、不名誉に思える呼び名を当のインディアンの人々は、今では望んでいるという。
これには様々な議論があるが、インディアンをネイティブ・アメリカンと呼び替えることは白人主導であり、アメリカ・インディアンの辿ってきた虐殺と差別の歴史を消し去ることになるのではないか?との疑念があるという。よって近年ではネイティブ・アメリカンではなく、アメリカ・インディアンと呼ぶ流れがある(当事者たちは細やかに部族名で呼ぶことを望んでいる)。
それから528年後の今年、コロンブスの銅像は全米で引き倒された。コロンブスを「新大陸」発見の英雄とするか、500万人以上のインディアンを大量虐殺した世紀の虐殺者とするか、これからの時代に判断が委ねられている。
果たしてアメリカは本当に「新大陸」だったのか? それはヨーロッパの白人社会を中心とした歴史観によるものではないか? すでに発見されていたものを侵略したのだ、という観点を知り、自分に植え付けられた歴史感が一方的なものだったことに気づく。インディアンたちは今も、10月12日のコロンブス・デーを「インディアンが白人を発見した日」としてプロテストを続けている。
空港から鉄道に乗り、市街地へ向かう。ワシントン州シアトル。アメリカ北西部、カナダが近いこともあり、6月とはいえD.C.と比べるとだいぶ涼しかった。日本で例えるなら仙台のような場所だろうか。僕らの世代でシアトルと言えばまずはイチローだし、スターバックス発祥の地だろう。個人的にはカート・コバーンを擁するニルバーナが出てきた街だし、ジミ・ヘンドリクスの故郷でもある。車窓から街を眺める。街のデザインや散在する壁画などから、洗練されたアートとカルチャーの匂いをかぎとる。
鉄道が中心街へ入ると地下鉄に変わる。キャピトルヒルの駅で降りる。キャピトルヒルはこのシアトルの中でも、とくに洒落ていてヒップな人々が集う先進的な地域だそうだ。無理やり例えるなら京都の左京区のような雰囲気かもしれない。駅を出るとすぐにCHOPがあった。CHOPとはCapitol Hill Organized Protest(キャピトルヒル組織的抗議)の略で、ジョージ・フロイド事件の後、市民に囲まれた警察署(シアトル東分所)から市警が撤退したことを受けて、プロテスターが占拠し自治区を宣言していた。それはちょうど6月初頭、僕がミネアポリスにいた頃だった。
A masterpiece was created in the Capitol Hill Autonomous Zone today #BlackLivesMatter #CHAZ pic.twitter.com/augbcA6Cqg
— Kyle Kotajarvi (@kylekotajarvi) June 12, 2020
自治区の宣言当初、ダーカン市長(民主党)もこの存在を「近所のパーティのような雰囲気だ」と肯定的にとらえ、市の予算を配分する交渉も始まっていた。この連載でも触れてきたとおりプロテスターたちは、警察予算の削減と黒人コミュニティへの予算分配を求めており、ホームレス支援のフリーフードの試みや自治区内の公園を開墾し自給自足を始めるなど、自治の実験の場として注目を集めていた。ただ、一方ではトランプ大統領を中心にCHOPはアナキストの巣窟であるという言説も広まっていた。
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