国の狙いは福島を利用した「新エネルギー」の宣伝だ!

五輪聖火リレーコースを走ってみた! 第2回

烏賀陽弘道
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 さて、出発点に行ってみよう。

 仰天した。かつての草むらにフレコンバッグしかなかった場所に、真新しい住宅団地が出現していた。低層住宅も、道路の舗装も、植栽も、すべてが新しい。入居が始まったのは、2019年10月のことである。

 その新興団地の道路をペダルを漕いだ。やがてコンサートホールのようなモダンな曲線の建築が姿を現した。それが新しい大熊町役場だった。2019年3月に竣工した。2階建て、総床面積5469平方メートル。建築費は27億4118万円である。下の空撮写真で説明すると、右奥が住宅団地のスタート地点。住宅団地を走って、右手前がゴールの大熊町役場である。視線を上げると、太平洋が見える。海岸線に沿って左に見えるのが福島第一原発である。拡大すると、汚染水を貯蔵するタンク群も見える。聖火リレーのコースから原発までの距離は約6キロ。いうまでもなく、同じ大熊町内である。

6番目のコース、大熊町。晴れた日には遠くに福島第一原発が見える

2020年8月21日時点での福島第一原発。汚染水を貯蔵するタンクが林立している

 ここにはメルトダウンした原子炉が3つあって、溶け落ちたウラン燃料がいまも崩壊熱を出し続けている。「こんなに近いのか」。空撮写真を改めて見ると、私のような小心者はヒヤヒヤする。もちろん、そんなことを意識してランナーは走らないだろうし、忖度と配慮の行き届いた新聞テレビは、そんな冷徹な事実を報じることはしない。

スタート地点の住宅街区地図を見る烏賀陽氏。後ろの高台は常磐自動車道

富岡町同様、似たような真新しい住宅が並ぶ。この車道側が聖火リレーコース

27億円をかけて2019年に完成した大熊町の新役場

 またしても、ゴールインするのに5分もかからなかった。その距離1キロ。「大熊町を走った」というより「どこかの新興団地を走った」という実感しかない。この一角だけが外から切り離されていて、まるで箱庭のようだ。

 どうにもこうにも、私には目の前の現実がうまく飲み込めない。「復興」といえば、原発事故前にあった町並みに人々が戻り、商店が開き、日々の生活が戻ることだと思っていた。しかし、国はこの原発事故前には存在すらしなかった街区を作って「復興」なのだという。「木に竹を接ぐ」。そんな言葉が頭に浮かんだ。

2014年当時の大熊町大川原地区。田畑がつぶされ、除染で出た放射性廃棄物の置き場になっていた(撮影/烏賀陽弘道)

2020年の大熊町大川原地区。かつてフレコンバッグ置き場だった場所は整地され住宅団地や町役場になった

 そもそも、大熊町全体の面積からすると、ここは1割程度でしかない。他の部分は中間貯蔵施設のために造成中か、汚染のため立入禁止かである。

 一方、大熊町の財政規模は、原発事故前の3倍以上に膨れ上がっている。原発事故前の平成22年(2010年)度、大熊町の一般会計歳入額は75億円(決算)だった。それが、令和2年(2020年)度には260億円になった。10年間で3倍以上という急激な増加である。「年収750万円だったサラリーマンが、いきなり2600万円になった」と例えればわかりやすいかもしれない。

 大熊町の予算規模が今も75億円のままだったら、町役場の建設に1年の歳入額の3分の1を超える27億円をかけることは苦しいだろう。しかし260億円になれば、無理な事業ではない。

 なぜかくも急激に予算規模が膨らんだのか。町の歳入260億円のうち114億円が「国からの補助金」である。他にも県を経由した国予算もある。つまり大熊町が急に3倍もお金持ちになったのは、国が多額の「復興予算」をつぎ込んだ結果である。それだけのお金がどこから来るのか。財源は「復興税」など私たちが払った税金だ。

(1)国が予算を投下して新しい役場や小中学校、住宅団地をつくる

(2)そこを聖火リレーのコースに設定する

(3)真新しい街をバックに走る聖火ランナーがテレビやネットで流れる。

(4)復興のイメージが広まる。

 これが「復興ショールーム」が原発被災地のあちこちに出現する仕組みだ。あえて意地悪な言い方をすれば「原発事故からの復興」という「国策」の宣伝のためにオリンピックを利用しているのである。

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プロフィール

烏賀陽弘道

うがや ひろみち

1963年、京都府生まれ。京都大学卒業後、1986年に朝日新聞社に入社。名古屋本社社会部などを経て、1991年から『AERA』編集部に。1992年に米国コロンビア大学に自費留学し、軍事・安全保障論で修士号取得。2003年に退社して、フリーランスの報道記者・写真家として活動。主な著書に、『世界標準の戦争と平和』(扶桑社・2019年)『フェイクニュースの見分け方』(新潮新書・2017年)『福島第一原発メルトダウンまでの50年』(明石書店・2016年)『原発事故 未完の収支報告書フクシマ2046』(ビジネス社・2015年)『スラップ訴訟とは何か』(2015年)『原発難民』(PHP新書・2012年)     

 
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