沖縄の怒りと悲しみを「演じる」ことの意味

写真家・石川真生が「琉球大写真絵巻」に込めた思い 第2回
石川真生

演技が気に入らなければ何度も撮り直すと語る石川さん

 2013年から「大琉球写真絵巻」の撮影を開始。以来、およそ、年に一回のペースで新作を発表し続けてきた石川真生さん。今回、埼玉県の「原爆の図丸木美術館」で開催されている写真展は、2014年発表のパート1から、最新作のパート4に至る全作品が沖縄以外で公開される初めての機会だ。初日の2月10日には、石川さん自身が作品を解説する「オープニングトーク」が行われたこともあり、会場には首都圏を中心に多くの来場者が訪れた。
 ひとつひとつの作品を紹介しながら、エネルギッシュに、そしてユーモラスに、題材となった沖縄の歴史や出来事と、そこに込めた自分の想いや、撮影時のエピソードを語る石川さんの熱気にギャラリーが引き込まれてゆく……。

 石川さんの「大琉球写真絵巻」シリーズを大きく特徴づけているのは、被写体となっている人たちが、自分たちの知らない沖縄の歴史を自ら「演じる」という創作写真の形態だ。歴史だけではない。時には自分自身の子供時代や、今、沖縄で起きているアクチュアルな出来事の当事者たちを「演じて」いるのだ。
 石川さんの想像力と「沖縄」という軸を中心に「自分ではない誰か」を、あるいは過去や今を生きる自分自身の姿を、ファインダーの中で「演じる」という行為を通じて、そこに自他の別を超えた、時間や空間を超えた「共感」が生まれ、作品に写りこんでいる。そして、その「共感」の力が、彼女の作品に触れ、その言葉に触れた人たちの間にも「伝染」する。

 

 私の写真に出てくれているのは、ひとりを除いて全員が素人。友人や知人が、みんな手弁当で手伝ってくれている。それなのに撮影の時の私ときたら、まるで偉い映画監督みたいに「ダメ、ダメ、もう一回、テイク1、テイク2!」「もっと大きな声出して!」「もっと悲しそうに!」なんて威張っちゃって。時にはテイク10まで粘っちゃうこともあるんだけれど、ありがたいことに、それを面白がってくれる人が多いのね。
 一度、沖縄戦のシーンで死体役を頼んだ女性が、「出るのが楽しくなってきた」と次は友達も誘って「死体役軍団」を結成。毎回、死体じゃ悪いと思って3回目に生きている役を頼んだら、撮影が終わったあと「死体役でいいよ。寝たままで楽だから」と言われて(笑)。

死体や悲惨な体験を演じることで、沖縄の歴史やそこで生きた人の気持ちを追体験し、理解が深まっていく

演じるのはほぼ全員が友人・知人。このプロジェクトに共感し手弁当で手伝ってくれている。

本土から旅費を払って参加してくれる人もいたという。

 

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プロフィール

石川真生

1953年、沖縄県生まれ。写真家。主な作品に『熱き日々in沖縄』(フォイル)、『石川真生写真集 日の丸を視る目』(未来社)、『石川真生写真集 FENCES,OKINAWA』など。現在、「大琉球写真絵巻」のパート5を作成中。

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