大本監督がSNSに綴った「小よく大を制す」決意表明

水球日本男子“ポセイドン・ジャパン”の世界を変えた組織術③
小林信也

 大会直前、水球男子日本代表の大本洋嗣監督が、SNSにこんなメッセージを投稿した。

「世界の水球選手のサイズ。

 カザフスタンでも189.3。

 日本だけ他の競技と思われるサイズ。

 普通に考えたら絶対に勝てないし、勝てるわけがないと思っていた。

 少し前までだけど。」

水球日本男子のメンバー。一番背の高い荒木健太選手(左から2人目、186㎝)でもカザフスタンの平均より小さい

 そして、海外の水球サイトに掲載された、「長身選手ランキング」と「背の低い選手のランキング」を引用していた。長身ランキングを見ると、1位から5位まで203㌢の選手が並んでいる。

 小さい方の1位は日本の荒井陸(あつし)で165㌢。2位が足立聖弥と吉田拓馬の175㌢。4位が福島丈貴(ともよし)の177㌢。上位4位までを日本選手が占めている。荒井の165㌢は、世界から見れば脅威のサイズだろう。国を代表するチームに160㌢台の選手が選ばれるなんて、強豪国の発想にはない。試合後、すれ違いながら握手を交わす光景を見れば一目瞭然、外国選手に並ぶと荒井は肩の高さより小さい。しかし、初戦のアメリカ戦でも貴重なシュートを決めた。165㌢の選手が国際レベルでも十分に活躍できることを荒井は証明している。

荒井陸選手。アメリカ戦後の選手同士の握手では、ひときわ目立っていた

吉田拓馬選手(26歳)、175㎝・77kg。Kingfisher74所属

福島丈貴選手(27歳)、177㎝・80kg。Kingfisher74所属

 さらに、世界に衝撃を与えているのが足立聖弥だ。大本監督ははじめ日本代表メンバーの誰もが「天才」と認めるゴール・ゲッター。派手な活躍が目立つ稲場悠介に主役を譲り、つつましく振る舞う足立だが、シュート力では稲葉にひけを取らない。実際、ヨーロッパのプロ・リーグに誘われ、すでに実績を重ねている。アメリカ戦では7点を記録し、1試合終了時点で、ギリシャ選手と並び得点王争いのトップに立っている。

 世界の得点王・稲場悠介がアメリカから厳しくマークされ、初戦は1点も取れなかった。そういう試合展開になれば、稲場に代わって足立がシュートを決める。両輪が存在するのも日本代表の強さの一因だ。

予選第1戦のアメリカ戦では日本の13得点中7点をあげた足立聖弥選手

 身長データに話を戻そう。チームの平均身長はというと、最も高いのは次に対戦するハンガリーで196.3㌢。2位クロアチア、195.2㌢、3位アメリカ、194.4㌢と続く。14位までが190㌢台で、参加16チーム中、最も低いのが179.5㌢の日本だ。

 この数字で明らかなとおり、高さで勝負したら勝負にならないのは目に見えている。だからこそ、日本は独自のパスライン・ディフェンスを磨き上げ、世界から怖がられる存在にのし上がった。

 大本監督は単に身長の数字を紹介しただけで、ほかに何も書いていないのだが、高校時代の恩師と思しき人物から次のコメントが寄せられている。

「大本ジャパンの決意表明と読みました。ワクワクするね! この年になってこんな気持ちにはなかなかなれない」

 恩師のコメントに大本監督は次の返信をしている。

「高校で先生と出会ったせいで、こんな羽目になりました(^○^)」

 さらに恩師のメッセージ。

「ひと昔前まで、世界に全く相手にされなかった。今日、対戦相手は脅威を感じるまでに成長している。オリンピックでは、用意した戦術でゲームを思い切り楽しみ、勝利を掴んでください。応援に行けないのは残念だけど、テレビの前で応援しています。」

 この言葉は、水球に打ち込んできたすべての水球選手、関係者たちの気持ちそのものだろう。大本監督にメールで尋ねると、次の答えが返ってきた。

「このコメントは、高校時代(市立千葉高)の恩師の上野先生です(筑波大出身)。競泳と思って入部したら水球で、先輩が3人しかいませんでした。しかも千葉県2部リーグ。同期が入部してなんとかチームになって、2年目の新人戦で優勝。3年ではインターハイに……」

 大本監督が水球と出会った原点が垣間見えた。

この体格差をはねのけるために大本監督が採用した戦術が、パスライン・ディフェンス(その中身については、第1回記事参照)

 さらに海外在住と思われる女性からは、英文でこんなメッセージも寄せられている。

「さあ、サイズなんて関係ないと認識させましょう! サイズだけの勝負なら、つまらない。日本の水球選手は、ただ小さいだけでなく、強くて、そしてハンサムです。コーチも含めてね!!」

 第2戦のハンガリー戦、第2ピリオド終了時までは8対8の接戦を演じていたが、初戦同様、第3ピリオドで突き放され、そのまま攻撃力を抑えられたまま試合終了を迎えた。16対11。善戦しながら、なんとも悔しい2敗目。まだ決勝トーナメントの望みはある。第2戦では稲場が3点を挙げた。まだまだ全開ではない。稲場自身、ジリジリしていることだろう。

 世界中から熱い思いを託されて、ポセイドン・ジャパンは次の戦いに臨む。

 取材・文/小林信也  写真/大杉隼平  図版/海野智

プロフィール

小林信也

小林信也(こばやし のぶや)

1956年、新潟県生まれ。Number編集部を経て、スポーツライターとして独立。テレビのコメンテーターとしても活躍。『野球の真髄』(集英社新書・2016年) 『生きて還る 完全試合投手となった特攻帰還兵 武智文雄』(集英社インター・2017年)

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