5月9日 首相官邸前、ハンガーストライキ開始
朝の9時過ぎだっただろうか、元山仁士郎はリュックとパネル、アウトドア用のイスを抱え、官邸前に現れた。思いのほか軽装で、周囲にサポートする人が常駐していないことにも驚いた。前回、2019年に宜野湾市役所前で行われたハンガーストライキも105時間のドクターストップまで見届けたが、地元沖縄だったこともあり多くの仲間や友人たちが彼のまわりで奔走していた。しかし今回は本当に独りの孤独な行動に見えた。それでも飄々と彼は「HUNGER STRIKE 復帰50年 辺野古新基地建設の断念を求めます」というシンプルなパネルを広げ、準備を始めた。
首相官邸は横断歩道のすぐ向こうだ。当然のごとく警官に囲まれる。彼は警官たちにも丁寧にメディア向けのプレスリリースを手渡す。一見すると彼は不適なほどに穏やかに感じられた。それは国家権力に対するプロテストの始まりにしてはあまりにも静かだった。
午前10時。新聞社など15社ほどが駆けつけ、路上での記者会見が始まる。
彼は日本政府、岸田政権に対し、3つの要求を表明した。
①辺野古新基地建設の即時断念
②普天間飛行場の数年以内の運用停止
③日米地位協定の運用にかかるすべての日米合意を公開し、沖縄県を含む民主的な議論を経て見直すこと
記者会見全記録
記者会見は53分に及んだ。岸田首相が3つの要求を飲むまでハンガーストライキを続けること。医師の診断を受けながら行うこと。水と塩だけを摂取すること。さらにネットでの署名を集め、それを岸田首相、外務大臣、国土交通大臣、防衛大臣に提出することが表明された。
沖縄の基地問題が「解決」されない限り、沖縄にとっての「復帰」、そして「戦後」は終わらない。プレスリリースを読み上げる彼の表情はいつも通りとても冷静なもので、その内容は過不足なく 鋭く研ぎ澄まされたものだった。時々、けたたましく叫びながら官邸のゲートを開ける 警官の声が、国家により人間性を消失させられた個人を思わせて奇妙だった。そのように教育が施されていることをなんとなく察した。
記者からの質疑応答に答える彼の姿は堂々たるもので、 淀みなくすべての言葉を的確に打ち返していく。安心感さえ漂わせていた。前回のハンストの時点で、空腹の状態で橋下徹と対等に討論するなど(BSの番組でのオンライン討論)、尊敬に値する姿を見ていたが、あれから3年、100回以上に渡る全国での講演を経て、彼の弁舌は磨きに磨かれていた。その様は、もはやどんな政治家より政治家であるとすら思った。しかし政治家でない分、彼の言葉は迷いがなく、より生々しく響いた。
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