元山仁士郎のハンガーストライキ151時間が問う沖縄「復帰50年」

大袈裟太郎

5月13日 ハンスト5日目 FCCJ 日本外国特派員協会ー大成建設本社前

宿泊先から外国特派員協会へ向かう

96時間の飢餓状態の人物の外国特派員協会での記者会見は前代未聞に見えた。しかし彼の弁舌は堂々と、むしろ重みを増して響いた。彼の英語力には生配信の視聴者も驚いていた。オンライン署名の数はこの時点で24000筆を超えていた。 

Hunger Strike Against Henoko on 50th anniversary of Okinawa’s Return to Japan

https://www.youtube.com/watch?v=362pLsb7_Kg

FCCJ 外国特派員協会にて

ロシアによるウクライナ侵略が日本の軍備強化の動機として利用されていること。そして、琉球孤への軍事基地配備が進むことで、沖縄が再び戦場にされようとしている危機感について、彼ははっきりと言及した。

嫌な予感が頭をよぎる。今、私が住む沖縄が再び戦場になる危険性が高まっている。その時、私はどうするべきか。残念ながらシミュレーションせざるを得ない風潮がある。そしてある種、日本の政治家たちがそれを誘引しているような不気味さが気にかかった。この国家が向かう流れがどうにも信頼できない。

あれだけ安全だと言われた原発が爆発し、オスプレイが墜落した今、そう考えることは当然のように思えた。ただ、どの時代にもそれらの危険性を訴えてきた人々の存在があった。しかしその人々の声はいつも権力によって過剰な圧力を受け、かき消されてきた歴史がある。

先見性を持った人々の声が社会から軽んじられ、デマで踏み躙られる。そんな社会の流れに彼はひとりで抗っているようだった。

 

新宿センタービルは雨雲に突き刺さるようにそびえたっていた。沖縄北部から来た私から見れば、巨大な富を象徴するバベルの塔だ。個人には到底立ち向かいようのない存在に寒気がした。

大成建設本社のある、新宿センタービル

ここには辺野古の工事を受注する大成建設の本社がある。圧倒的な権力の前に仁士郎は座り込む。支持者たちが待っていたが、この場所には警官が来なかった。一般企業だからだろうか。しかし、辺野古新基地建設の複雑な利権構造の一端を担っているのがこの大成建設だ。辺野古の建設に関わる企業の8割に防衛省職員が天下りしている事実を、2016年、朝日新聞が明らかにしている。菅義偉前総理の三男がこの大成建設に勤務しているのも有名な話であるし、複数の自民党議員の親族経営の建設業者が、辺野古の工事を受注していることもすでに明らかになっている。辺野古の新基地建設は政治家、官民合わせての利権構造であり、国防を隠れ蓑にして2兆円以上の税金を親族や身内の懐に還流できるシステムなのではないか。調べれば調べるほどその疑念は強くなる。

 

バタフライエフェクトは着実に広がりを見せていた。この日の夕方、仁士郎の姿は初めて沖縄県外の地上波のニュースで取り上げられることとなった。

TBSの取材を受ける元山氏

すでにネット上では彼の元に多くの批判が寄せられていた。「ハンストなんて意味がない」。そんな言葉を投げる人々は、前回の彼のハンストの結果を知らないのであろうか? 前述の通り、彼にはすでにハンストによる成功体験があるのだ。
さらには、「中国が攻めてくる」「沖縄がウクライナになってもいいのか?」という声も多く寄せられていた。辺野古は「基地問題」として国防の話にすり替えられることによって、二項対立的に単純化され、本質から遠ざけられている感覚があった。

2019年の県民投票は「辺野古新基地」について「反対」という結果であった。ご存知の通り、辺野古の建設は普天間の移設という名目だ。普天間基地は沖縄にある全米軍基地の5%以下の面積の海兵隊基地だ。この5%の削減の話が、いつの間にか全基地撤去論と混同され、「中国が攻めてくる」と拡大解釈され、攻撃されるケースは多い。普天間基地がなくとも、沖縄には圧倒的な数の米軍基地、自衛隊基地が存在するのだが、これを見落とした議論は多い。

辺野古県民投票の結果は、沖縄の全米軍基地のありか無しかの話ではなく、「新しい基地はもう必要ない」という県民の民意という話だ。この点の理解が共有されていない現実を感じる。0か100かではなく、的を絞って問題を語る必要性を「本土」に対して、私は感じていた。 

 

新宿駅から近い場所だったこともあり、沖縄の友人たちも訪れ、現場は賑わっていた。その中に某ラジオ局でパーソナリティを務める友人の姿もあった。その人は言う。「仁士郎のハンストについてどうにかラジオで話題にしたんだけど、スタッフとの協議の結果、辺野古という言葉を使わないという約束で話すことができた」

「え? 辺野古って言えないの?」。仁士郎を含め、その場にいた皆が目を丸くした。

「辺野古って地名ですよね…」あっけに取られるような現実が相変わらず、そこに横たわっていた。

 

陽が落ち、新宿のビル街は霧に包まれて、魔都というような光景だった。5日目の終わり、取材する私ですら時間の感覚も体の感覚も麻痺してハイになっていた。それでも仁士郎は淡々と安定しているようだった。

陽が落ちても多くの人々が彼の元に駆けつける

帰りの移動の際に、新宿南口を通る。南口の陸橋の上で2014年、ある男性が焼身自殺をしたことが頭をよぎった。安倍政権の集団的自衛権行使容認に反対する主張があったとされ、CNNなど世界各国では大きく報道されたが、日本のマスメディアは小さくしか取り上げなかった。自殺報道についてのガイドラインなどの理由はあるにせよ、どこか意図的に矮小化されたように感じていた。

今、この場所を通り過ぎる人で、あの男性の存在を考えている人は皆無に等しいだろう。

「命をかけてまで訴えても、かき消されしまう報道の現実」

そんな話をしながら帰った。彼も神妙な表情だった。

ハンストの継続時間はいつの間にか前回の105時間を越えていた。

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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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