「政府は沖縄を再び戦場にするのか?」自衛隊配備の現場を行く・与那国島編

取材・文・撮影/大袈裟太郎
大袈裟太郎

圧倒的な防衛省マネーが島の価値観を変えた

駐屯地の賃貸料で町に年間1500万円。自衛隊員160名規模の町民税収入が年間約3100万円。町役場が算出した部隊配備の経済効果の一部だ。

建設業などの基地工事関連業者にはお金は落ちたが、一次産業の多いこの島では根本的な経済の活性化には繋がらなかった。

まして誘致に反対した事業者は、手厳しく蚊帳の外に置かれたという。

自衛隊建設のバブルは3年で過ぎて行った。

民宿を営むある50代男性に話を聞いた。

「最近、与那国の宿が取れないという話があるが、それは観光客ではないんです。防衛省が長期で工事関係者の宿泊先をおさえる。しかも通常の宿泊料の3倍以上でおさえる場合もある。私たち民宿経営者からすれば、おいしい話です。観光客のように毎日、部屋の掃除やベッドメイクをする必要もない。長期の借り上げだから空室でも賃料がもらえる。その結果、観光客を断る民宿が多くなってしまった。自衛隊バブルを経て島民たちはカネ、カネ、金の話が増えました。」

「残念ながら観光産業が機能していない状態です。せっかく『Dr.コトー』の映画公開で観光客が大勢興味を持ってくれている時期なのに、受け入れられる宿泊施設が足りない。民宿の多くは工事関係者で埋まってしまい、島で唯一あった大型ホテルもコロナ禍で廃業、今は基地工事関係者専用の宿泊所です。この島の自然や環境、文化的なものを活かした観光産業が風前の灯で、これでは基地依存の島になってしまいます」

もどかしい気持ちを吐露するのは、民宿経営者の女性だ。彼女は防衛省からの部屋の借り上げを今も断っている。

島に移住して20年になる、ある飲食店店主は言う。

「私が来た頃、この島では空き家にすると家が悪くなるからと、物凄く良心的な値段で家を貸してくれることが多かった。お金が中心ではない、もっと牧歌的な共同体がありました。しかし、自衛隊バブルで家がお金になることを知ってしまった。宿泊できる場所が足りないから、無理やりベニヤ板で区切った粗悪なタコ部屋でも防衛省は高額で借りる。この島の価値観は大きく変わってしまった」

私が民宿で感じた、飯場のような雑然とした雰囲気はそういう理由だったのだ。

島に来る建設労働者たちも、下請けの下請け、自分がいつまでいるのかも知らされていない人もいる。代々住んでいる島民か、この島が好きで住み着いた移住者しかいなかった牧歌的な島に、この島に来たくて来たわけじゃない、この島への愛がない人々が労働者としてあふれてしまった。結果、島民たちは集落でも島外の者と挨拶を交わすことを躊躇うようになった。離島独自の地域の共同体は変化してしまった。どこか警戒しながら暮らすことを強いられているように感じた。

比川集落にあるDr.コトー診療所のロケ地。この作品の内容もあり、訪れる観光客は穏やかな人たちで安心感がある。その活気もあってか比川集落には明るい雰囲気がある。しかしこの観光客たちも宿泊場所が少なく、日帰りの人も多い。
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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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