陸上自衛隊石垣駐屯地開設、ミサイル搬入のその日に何が起きたのか

取材・文・撮影/大袈裟太郎
大袈裟太郎
ミサイル配備後にスピーチをする山里節子さん(85歳)。これからも反対を続けていくという意志を示した

3月16日、数々の問題を抱えたまま石垣島に自衛隊駐屯地が開設された。
その朝は8時から駐屯地のゲート前で抗議集会が開かれていた。集会に駆けつけ、まず感じたのは抗議する市民たちの数が半減していることだった。
2019年3月の着工時に集まった人数は80名ほどだったが、この日は半分ほどで報道陣の数の方が多いように見えた。
この4年、建設工事が続く中で、いくつもの分断がこの島にもたらされた。人口5万人の島だ。親類や知人にこの基地工事に関連する人物がいない方が珍しい。軋轢を避けるため、基地の話題がタブーになっていく。人々は消耗していた。反対の気持ちがあってもこの場所に来たくない、駐屯地を直視したくないという島民の感覚は、痛いほど伝わってきた。4年前の工事開始時には、まだ集会で時折、笑顔を見ることがあったが、その日は誰の笑顔も見ることはなかった。

抗議・要請書を手渡しに行く市民。応対する自衛官は自動小銃を装備している

この日、市民たちが手渡した抗議・要請書に記されていたのは、

  • 周辺環境の破壊や敵基地攻撃能力の有無など、地域住民への説明が不十分なまま建設工事がなされ、「開設説明会」さえも開設後に行われることへの抗議。
  • ミサイル配備の日程やルートを公表すること。
  • 訓練や排水、交通量の変化などによる駐屯地開設後の環境被害や市民生活への影響への懸念と市街地での迷彩服の着用を控える要請。

地域住民として当たり前の抗議・要請内容であると感じたが、この動画をSNSにアップすると多くの誹謗中傷が寄せられた。自衛隊は今、この国のタブーになりつつあるのかもしれない。自国の「軍隊」に類する組織に対し、批判や疑念を表明することも許されない風潮がすでに蔓延しているとしたら、それはつまり78年前の日本軍に似通った構造になりつつあるのではないか。大きな不安がよぎる出来事だった。

自衛官たちの自動小銃が鈍く光っている

自衛隊が配備された於茂登地区の元公民館長で、農業を営む嶺井さんのスピーチが胸に刺さる。

彼らの親の世代は、65年前に嘉手納基地に生活の場を奪われ、琉球政府計画移民としてこの場所に移動してきた。水も道路もない、岩だらけの厳しい土地を開墾し、水を引き、畑を切り拓き、先人たちは生き抜いてきた。於茂登、開南、嵩田、川原、これらの集落はそうした先人たちの血のにじむ苦労の積み重ねの末、今ではパインやマンゴーの実る豊かな耕作地帯となり、石垣の農業を支えている。
そんな場所に再び、地域住民への説明も合意もないまま自衛隊基地が作られた。環境への影響が公表されるかどうかも不明瞭だが、水源地である場所を47ヘクタール(東京ドーム約10個分)も切り拓き基地を作ったのだ。環境や生態系への影響がない方が不思議である。土地に根を張り生きてきた農家にとって、土地を汚され奪われる、その怒りや無念さは計り知れないものだ。

駆けつけたある島民男性は苛立ちを隠さずに言う。
「なんで今になってマスメディアがこんなに来るのだろう。たくさんの問題が起こってる時も来なかったメディアたちが、なぜ完成した今になって来るのだろう」

空には何台も何台もヘリコプターが飛び交い、駐屯地を空撮していた。これらのヘリが飛ぶべきだったのは、環境アセスを逃れて着工した時だったはずだし、住民投票を市議会が否決した時だったはずだ。
今日飛んでいるヘリは、自衛隊駐屯地開設おめでとうと祝っているようだったが、マスメディアの仕事とは果たしてそれでいいのだろうか。
人数が減っても抗議の声を上げる市民たちを見つめながら、私は無力感にさいなまれた。いくつもの理不尽や民主主義を破壊するような行為を目のあたりにしながら、それらは日本社会に問われることなく、森は切り拓かれ基地は建設された。私自身も取材者の立場として打ちのめされていた。

人々の顔に焦燥感が漂う。住民たちはメディアからの取材に疲れ果てていた。何度も何度も同じ話を繰り返し質問され、ため息をつく住民たちにマイクを向けることは私にはできなかった。
それとは対照的に市街地の観光客たちは何も知らなかった。
何も知らされていないことに憤る人々と、何も知らされていないことすら知らない人々、この絶望的な対比を私は眺めていた。

この日の石垣市議会で野党議員から市長へ、敵基地攻撃能力を持つミサイルが将来的に配備される可能性についての質問が飛んだ。しかし中山市長はのらりくらりと「現時点では答えることができない」と繰り返し、ゼロ回答だった。議会制民主主義の崩壊は、中央の国会から、今や地方議会までに及んでしまったと感じた。

彼は2018年の市長選の際「防衛省が石垣に計画しているのは自衛隊駐屯地です。そこは断じてミサイル基地ではありません。ミサイル基地というのは直接、他の国の国土に攻撃できるものがミサイル基地です。もし石垣島への自衛隊基地がミサイル基地だったら、私は反対します。ミサイル基地は絶対許さん」そう演説して当選した人物である。

そもそも彼のミサイル基地の定義が欺瞞的な解釈であることに気づく。今回、石垣駐屯地に配備されるミサイルは12式地対艦誘導弾で、射程は200km前後。他国には届かないが石垣から166kmの尖閣諸島には届くものだ。中国側が尖閣を自国の領土と認識していることを踏まえると、このロジックは危うくなる。
また、昨年の安保3文書改定により、政府は専守防衛の原則から転換、石垣島へ敵基地攻撃能力を有するミサイル配備の懸念も高まっている。もし今後この配備が行われた場合、中山市長は深刻な公約違反となってしまう。

ちなみにこの自衛隊駐屯地の地権者である友寄市議への防衛省からの予算(土地取得費用)の流れは、いまだに非公開のままだ。

自衛隊石垣駐屯地開設の朝、周辺の農家の男性は基地を見つめていた
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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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