トランプ大統領への質問で焦点となるのは、「ロシア疑惑をめぐり司法妨害があったのか」、そして「トランプ陣営とロシアとの共謀があったのか」であろう。
司法妨害については、コミーFBI長官を解任した理由の正当性が問われることになる。トランプ氏は2017年5月9日、ロシア疑惑などを捜査していたコミー長官を解任した。当初はクリントン候補の私用メール問題対応の不公正さなどを理由としていたが、その後、コミー氏の捜査を中止させるためだったことが明らかとなり、司法妨害の疑いが出てモラー氏が特別検察官に任命されることになった。
トランプ大統領はセッションズ司法長官とローゼンスタイン副長官に「コミー氏解任の口実」を考えるよう指示したと言われているが、それについてもモラー氏に聞かれることになるだろう。
次にトランプ陣営とロシアとの共謀に関して。ロシアが米大統領選に介入したことはすでにはっきりしたが、問題はトランプ陣営がそれにどう関与したかだ。モラー氏が重要視していると思われる「出来事」がある。2016年6月9日、トランプ氏の長男ジュニア氏はニューヨークのトランプタワーで、クリントン候補に不利になる情報を得るためにロシア人弁護士らと面会したのだが、その件をトランプ氏がいつ知ったか、である。
トランプ氏は2017年7月にニューヨーク・タイムズ紙が報道するまでその事は知らなかったと主張した。しかし、この証言は元側近らの話と矛盾している。
マイケル・ウォルフ氏の暴露本『炎と怒りートランプ政権の内幕』のなかで、スティーブ・バノン元大統領首席戦略官はジュニア氏の会合について、「ジュニアが、あのモスクワの下っ端工作員たち(ロシア人弁護士)を26階の父親のオフィスに連れていかなかった可能性はゼロだ」と言い切っているのだ。
また、トランプ陣営の元政治顧問、サム・ナンバーグ氏はケーブルテレビの番組で、「トランプ氏は長男のロシアとの会合について知らなかったと言っていますが、本当だと思いますか?」と問われ、次のように答えた。
「そうは思いません。あなたもそれが本当でないことは知っていますよね。なぜ、そんなことをした(会合について知らなかったと言った)のか、わかりません。“ロシア人と会った。ロシア人が何かを提供した。そして何かを持っていると思った”と言えばよかったんです。なぜ、それを隠すのか私にはわかりません」
トランプ大統領が知らなかったと主張するのは、その会合が行われた時点で知っていたとなると、「知っていながら見過ごしたのか、あるいはトランプ氏自身も関わっていたのではないか」などの疑いが出て、ロシアとの共謀が成立する可能性が高くなるからだ。
プロフィール
矢部武(やべ たけし)
1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。