特別検察官の追及でトランプ政権の終わりが近い……?

米国ニュース解説「トランプ弾劾・解任への道」第2回
矢部武

鉄鋼・アルミニウムの輸入制限のため高関税をかけ、中国と通商摩擦を引き起こしたり、米朝首脳会談をぶちあげたりと、外交ニュースで派手な話題を振りまいているトランプ大統領。

だが実は、この動きの裏には、自分の足下が危うくなっていることがあるのかもしれない。トランプ氏は昨年から、ロシアによる2016年米大統領選介入とトランプ陣営との癒着の問題「ロシア疑惑」で何かを隠しているのではないか、だから、それを捜査していたコミーFBI長官を不当に解任したのではないか(司法妨害)との疑いをかけられていた。

そして、その捜査を行っているモラー特別検察官の追及が、いよいよトランプ自身に迫っているというのだ。3月に発売された『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』(集英社新書)の中でこの問題を取り上げた、ジャーナリストの矢部武氏に最新情報を解説してもらった。

ロシア疑惑と司法妨害について、特別検察官の捜査は着々と進んでいる。トランプは逃げ切れるか、ニクソンのようになるのか?(写真提供 ユニフォトプレス)

 4月4日付のワシントン・ポスト紙は、モラー特別検察官がトランプ大統領の弁護士に対し、「大統領への捜査は継続しているものの、“現時点で”刑事捜査の対象とは考えていない」と報じた。しかし、一方で、この発言はトランプ大統領を安心させて、直接の事情聴取に応じさせるためのモラー氏の戦法ではないか、との専門家の指摘もある。実際、大統領に対するモラー氏の捜査は激しさを増し、大統領本人への事情聴取も迫ってきている。最近のモラー特別検察官の動きを検証してみよう。

 3月15日、モラー氏のチームがトランプ大統領の一族が経営する企業「トランプ・オーガナイゼーション」(以下、トランプ社)に召喚状を送り、ロシア関連の文書を提出するように求めたと、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。
 トランプ氏はこれまで、「ロシアとビジネスの取引は一切ない」と主張してきた。しかし、自伝の共著者から「天性の嘘つき」と呼ばれているトランプ氏の言葉を、そのまま信じることはできない。1つはっきりしているのは、モラー氏がトランプ社に召喚状を送ったということは、ビジネス取引に関して新たな疑問が出てきたということだ。

 

 ニューヨーク・タイムズ紙の一報に続きABCニュースは、トランプ氏が2016年大統領選前に、かつてのビジネスパートナーであるフェリックス・セイター氏と「モスクワにトランプタワーや世界一高いビルを建設する計画について詳細に話し合った」ことを報じた。その計画はトランプ氏が立候補した後も続き、セイター氏はトランプ氏の弁護士に「それは選挙戦に有利になるだろう」と助言したという。
これによって、トランプ氏が大統領選中にロシアで大儲けしようと考えていたのではないかとの疑惑が出てきた。ABCニュースは、この件もモラー特別検察官の捜査対象になるかもしれないと報じている。

 また、トランプ大統領への事情聴取に関しても新たな動きがあった。トランプ氏は以前、「モラー特別検察官と会って、宣誓した上で質問を受けたい」と話していた。しかし、虚言や放言が目立つトランプ氏が直接聴取に応じて、虚偽の証言をすれば偽証罪に問われる可能性があるため、大統領の弁護団はモラー氏に書面による回答を求めたようだ。
 これに対し、モラー氏のチームは大統領の弁護団と協議を行い、具体的な質問事項などを伝えたと、CNNが3月19日に報じている。

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プロフィール

矢部武

矢部武(やべ たけし)

1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。

 

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