特別検察官の追及でトランプ政権の終わりが近い……?

米国ニュース解説「トランプ弾劾・解任への道」第2回
矢部武

 モラー特別検察官の捜査が激しさを増すにつれて、トランプ大統領がモラー氏を解任するのではないかとの不安が広がっている。大統領は以前、「一族が経営する企業にまで捜査が拡大されたら、一線を越えたことになるだろう」と述べていたことも、「解任説」に拍車をかけている。

 実際、トランプ社に召喚状が送られたと報道された後、トランプ大統領はモラー氏批判を強め始めた。3月18日には、「モラー氏のチームは13人の民主党強硬派からなり、ヒラリー支持の悪党で、1人として共和党員はいない」とツィートした。しかし、それは誤りで、モラー氏自身は昔からの共和党員だ。そして共和党のブッシュ大統領(子)によって、かつてFBI長官に任命されている。

 よく考えてみれば、トランプ大統領がトランプ社への捜査にこれだけ神経質になるということは、ロシアとのビジネス取引を含め知られたくない何かを隠しているということではないのか。
 下院情報委員会のアダム・シフ議員(民主党)は3月18日、ABCの政治討論番組「ジス・ウィーク」でこう指摘した。
「トランプ候補はロシアとは仕事上の利害関係はないと言っていた。ところが、大統領選中にロシアで大儲けしようとしていたかもしれませんし、実際、トランプ陣営のマナフォート元選対本部長は金儲けしようとしていたようです。それがトランプ候補の公約に影響を与えたのか、またトランプ大統領の政策に影響を与えているのかなどを調べる必要があります。なぜなら、ロシアがこれを米国大統領に対するテコとして依然として使えるならば、捜査しないことは安全保障に関わってくるからです」

 トランプ大統領としては1日も早くモラー氏の捜査を終わらせたいだろう。しかし、モラー氏を解任すれば、議会下院で特別検察官に代わる独立検察官を任命するための法案が提出されることになろう。それが可決されればモラー氏を復職させることができる。

 共和党重鎮のリンゼー・グラム上院議員は、「モラー氏を解任すれば、トランプ政権の終わりの始まりとなるだろう」と警告している。つまり、「公正な仕事をしている」との評価の高いモラー氏を正当な理由もなく解任すれば、民主党だけでなく共和党の議員からも批判を受けることになり、トランプ氏は自らの手で首を絞めることになるだろうということだ。

 実はウォーターゲート事件の時も似たようなことがあった。1974年8月に辞任したニクソン大統領はその約10カ月前(73年10月)、コックス特別検察官を不当に解任したが、それによって議会と世論の支持を一気に失い、弾劾に向けた動きを加速させてしまったのである。

 拙著『大統領を裁く国 アメリカ』でも詳しく述べたが、トランプ大統領とニクソン大統領は目的のために手段を選ばず、平然と違法行為をする傾向があるなど多くの類似点を持つ。従って、トランプ大統領が自分の気に入らない特別検察官を突然解任するということは起こり得るように思える。そうなれば、「トランプがかつてのニクソンの二の舞になる」可能性はかなり高まるということだ。

 

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プロフィール

矢部武

矢部武(やべ たけし)

1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。

 

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