特別検察官の追及でトランプ政権の終わりが近い……?

米国ニュース解説「トランプ弾劾・解任への道」第2回
矢部武

 自身への事情聴取に加え、逮捕された元側近が次々とモラー特別検察官の捜査に協力していることも、トランプ氏の不安を強めているように思われる。すでにわかっているだけでも、マイケル・フリン元大統領補佐官、リック・ゲーツ元選対副部長、ジョージ・パパドプロス元外交顧問、サム・ナンバーグ元政治顧問などである。トランプ陣営の選対副部長だったリック・ゲーツ氏は選挙後も政権移行チームに加わり、トランプ政権の内幕を知り尽くした人物である。モラー氏のチームが彼らと司法取引をするのは、「自分たちがまだ知らない何かを提供してくれるかもしれない」と期待しているからであろう。

 詐欺行為の共謀罪と偽証罪の重罪で起訴されたゲーツ氏は捜査に協力することで、約20年の刑が4~5年、あるいはそれ以下に減刑される可能性があるという。
 ゲーツ氏は「屈辱的な状況だが、これはわずかな代償にすぎない。これをしなければ子供たちは大きな打撃を受けることになる」とコメントした。

 また、サム・ナンバーグ氏は当初、捜査への協力を拒否したが、最終的に同意した。ナンバーグ氏はABCニュースの番組で、「多額の弁護士費用を払い、多くの人が傷つきました。トランプ氏のせいです。彼が愚か者だからです」と厳しく批判。そして、トランプ大統領について何か情報を持っているのかを問われると、「持っているかもしれません。(トランプ氏が)選挙戦中に何かをしたかもしれない。でも、私は確信は持てない。そこにいた人でなければ説明はできません」と答えている。

 元側近たちの証言がトランプ大統領の弾劾・解任につながる重要な証拠をもたらすかもしれない。実は大統領もそのことを心配していたようで、先手を打っていたことがわかった。トランプ大統領の弁護士が昨年、特別検察官の捜査対象となっていたフリン氏とマナフォート氏に対し、「起訴されてもトランプ氏が恩赦する」と持ちかけていたと、ニューヨーク・タイムズ紙が3月28日付で報じたのだ。大統領に不利な証言をさせないためと思われるが、それが事実であれば司法妨害にあたる可能性も出てくる。

 しかしながら、フリン氏は恩赦を持ちかけられても、特別検察官の捜査に協力した。フリン氏は選挙戦中からロシア側と接触するようにトランプ氏に要請され、選挙後もロシアとの接触を指示されていたというが、フリン氏が特別検察官に何を話したのか気になるところだ。

 トランプ大統領は元側近たちが「第2のジョン・ディーン」になることを心配しているようだ。ジョン・ディーンは、ニクソン政権の法律顧問としてウォーターゲート事件に深く関わり、事件のもみ消しに奔走したが、その後、訴追免除と引き換えにニクソン大統領に不利となる重要証言をした人物だ。

 ディーン氏は最近テレビのトーク番組などで、ロシア疑惑の捜査をウォーターゲート事件と比較した発言をしているが、トランプ氏は彼が大嫌いなようだ。前述のウォルフ氏の著書によれば、トランプ氏はディーン氏が出演すると、怒り狂い、テレビの画面に向かって「忠誠心はないのか」などと噛みついているという。
 個人的にも交流のあったニクソン元大統領を裏切った人物として嫌っているようだが、トランプ氏にとっては捜査に協力している元側近たちも同じように見えているのかもしれない。
 

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プロフィール

矢部武

矢部武(やべ たけし)

1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。

 

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