2025年はマルケス第2黄金期の到来か?

──2024年シーズン総括&2025年用テストレポート──
西村章

新体制のアプリリア、王者マルティンとルーキー小椋藍の課題

 そのアプリリア陣営の2025年ファクトリーチームは、マルティンと、同じくドゥカティ陣営から移籍してくるマルコ・ベツェッキ、というラインアップだ。

 最終戦翌々日の火曜には2025年の新体制でテストが実施されたが、マルティンとベツェッキはともにスポンサー等の2024年契約が残る状態での移籍となったため公にコメントできない状態で、この日は走行後も取材には対応しなかった。彼らのテスト内容についていくつかの事実を述べておけば、両選手はまず2024年仕様で走行感覚のベースを掴んだ後に、2025年プロトタイプで周回を重ねた。また、両選手がコメント取材に応じなかったかわりに、新テクニカルディレクターのファビアノ・ステルラッキーニがメディアに対応した。

「世界チャンピオンバイクに乗っていたライダーが我々の陣営に来てくれることは、とても大きなチャンスです。どこにどう注力して改善すればよいか、という明確な参照点を得ることになるわけですから。それを私がクリアに把握するのは、まだ少し時間がかかるかもしれません。新チャンピオンのホルヘと話をし、一緒に仕事を始めてまだ2日にすぎませんが、彼の取り組みやものごとへのアプローチはじつに素晴らしいと感じています」

午前中に2024年仕様を試してから、午後は2025年仕様のプロトタイプに注力したアプリリアのベツェッキ。どんなコンディションでも安定した強さと速さを発揮することが今後の課題だ。写真/MotoGP.com

 この数年のアプリリアは、確実に実力を増して表彰台を狙える圏内へ到達するようになってきた。ただ、シーズン全体、あるいは陣営全体のパフォーマンスとして見れば、ドゥカティと互角の力を発揮できるようになるためには、マシンの戦闘力をまだかなり底上げする必要がありそうだ。

 その点で、新テクニカルディレクターのステルラッキーニは、現職に就く前は2021年から今年半ばまでKTMに在籍し、さらにその以前は17年間ドゥカティでエンジニアとして仕事をしてきたというバックグランドがある。彼の豊富な経験が今後の開発面にどのように活かされるのかが、戦闘力向上のカギのひとつになるだろう。

 また、アプリリア陣営といえば、サテライト陣営のTrackhouse MotoGP Teamから最高峰デビューを果たす小椋藍には日本のファンからも大きな注目が集まっている。2024年にMoto2チャンピオンを獲得した小椋の可能性に対して、チームプリンシパルのダビデ・ブリビオは、どれだけ努力をするか、どれだけ謙虚に学ぶか、それを経験にどう活かしていくかが大切、と語る。

小椋が2025年に駆るアプリリアRS-GP(左)。2025年にはさらなる開発の進捗も期待される。この日のテストで、小椋(右)は誰よりも多い86周を走り込んだ。 写真/西村章

「ルーキーの最高峰クラス初年度は、多くのことを学ぶシーズンです。Moto2からMotoGPへステップアップするに際して、近年ではかつてと比べると難易度がどんどん大きくなっています。バイクの差はもちろん、空力を活用するエアロパーツや車高調整デバイスなど、挙動の理解や操作を学ばなければならないことがたくさんあり、容易な作業ではありません。なので、焦らずじっくりと取り組んでいくことが大切です。我々はもちろん藍の才能を信じているし、彼のレースアプローチの方法や懸命に戦う姿勢も素晴らしいと感じています。これから共に戦いながら、ポテンシャルを発揮できるいいバイクに仕上げていきたいと思います」

Trackhouse MotoGP Teamのチームプリンシパル、ダビデ・ブリビオ。ヤマハやスズキで陣頭指揮を執った経験が長く、日本人とのコミュニケーションにも長けている。写真/西村章
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プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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