2025年はマルケス第2黄金期の到来か?

──2024年シーズン総括&2025年用テストレポート──
西村章

マルケスvsバニャイアがドゥカティ唯一の不安要素

 チャンピオンライダーのマルティンが移籍し、経験豊富なテクニカルディレクターがアプリリア陣営に加入するとはいっても、ここ数年のMotoGPを圧倒的な強さで支配してきたドゥカティのアドバンテージは、2025年もそう簡単には揺るがないだろう。

 なんといっても、ファクトリーチームは2022/23年チャンピオンのバニャイアに、あのマルク・マルケスが合流するのだ。上記のとおり、2024年のマルケスはドゥカティ初年度で、しかも型落ちマシンでも2戦に1度の割合で表彰台を獲得してきた。1年分の経験を重ねたうえでフルファクトリー体制になる2025年は、かつてのホンダ最強時代に匹敵するほどの圧倒的な強さを見せるであろうことは想像に難くない。

 ソリダリティGP翌々日のテストで初めてドゥカティファクトリーライダーとして走行したマルケスは、

「これは何度も言ってきたことだけれども、予算や設備やその他あれこれをいくら手に入れたところで、最終的には情報と開発をコントロールしてゆくのは人間のする仕事。そして、それらの人々を束ねるのがリーダーだ。今の場合だと、そのリーダーはジジだ。それがとてもうまく行っている。彼が右だといえば、皆が躊躇することなく右へ進む」

 とジジ・ダッリーニャが陣頭指揮を執る開発方向性の明快さを高く評価した。目指す方向にブレのないこの確信が、ドゥカティをここまで強い陣営に仕立て上げたことはいうまでもない。今回のテストでは、バニャイアとマルケスはともに2025年プロトタイプを徹底的に乗り込んだ。

「たくさんのことをテストして、今後の開発や改良に向けて非常に素性のいいバイクだと実感できた」

 と、バニャイアは走行後の夕刻に好感触を述べた。

「自分とマルクは、バイクについて同じ印象だったのが心強い。同じ方向性を目指して開発を進めていけそうなことがなにより重要。ハンドリングに関しては24年型のほうがまだ少し良い。でも、25年型は高速コーナーでの安定性に優れており、ユーズドタイヤでも安定して走ることができる。ニューエンジンも力強い。通常ならこれほどの状態からニューマシンをスタートできることはあまりなくて、たいていはかなりの作業が必要なので、いい状態のベースから始められるのがうれしい」

2024年シーズンに何度も見られたバニャイアvsマルケスのバトル。2025年はこれがチームメイト対決として真っ赤なカラーリング同士で競われることになる 写真/MotogGP.com

 今回のソリダリティGPおよび事後テストを取材に訪れていた元グランプリライダーの青木宣篤は、2025年もドゥカティの優位はゆるがないだろうという。ただ、唯一心配する要素があるとするならば人間的な要素だろう、と言う。

「チーム内バトルじゃないけれども、人間関係が大丈夫なのかな……みたいなことを勝手に心配するわけですよ(笑)。お互いに負けたくない同士が結局お互いを潰しあっちゃうようなことだけは、チームとしてはやはり避けたいですよね。2024年にペコがなぜあんなに転んできたのかというと、やはりホルヘに負けたくないからプッシュして結局ポイントを落としてしまったわけじゃないですか。そういうところで、ギクシャクしてお互いを苦しめ合わなきゃいいな、と思います。だから、彼らに万が一不安要素があるとすれば、人間関係でしょうね。でも、ペコが大人だからそこまでにならないと思うけど」

 さらにもうひとつ、2025年のドゥカティにとって大きな違いは、2024年の4チーム8台体制から3チーム6台体制になる、という点がある。しかし、この台数減少は大きなインパクトにはならない、とダッリーニャは話す。

「正直なことをいえば、そこは問題ではないと思う。問題になる要素があるとすれば、他メーカーがいいライダーを獲得する、という点だろう。実際、たとえば過去にアプリリアはファクトリーチームのみの2台体制からサテライトを得て4台体制になったけれども、成績に大きな変化はなかった。だから、自分たちのライダーが6名に減って6台体制になることが問題なのではなく、マルティンとエネア(・バスティアニーニ/2025はKTM)が他社に行くこと、これが2024年と25年の大きな違いだ」

ドゥカティの「頭脳」ジジ・ダッリーニャ。彼の様々なアイディアがドゥカティをMotoGPトップメーカーの座に押し上げ、他陣営はその技術を追随するだけ、という傾向がこの数年続いている。写真/西村章

 と、ダッリーニャは社交辞令のようなニュアンスも込めながら話している。とはいえ、彼らドゥカティ首脳陣はマルティンやバスティアニーニを手放してでもマルケスを獲得するメリットが大きいと考えたからこそ、このようなライダー人事を行ったのであろうことはいうまでもない。

KTMはアコスタがどれだけマシンを仕上げられるか

 ドゥカティ、アプリリアと並ぶもうひとつのヨーロッパメーカーKTMは、最高峰クラス2年目のペドロ・アコスタがファクトリーチームへ昇格する。2024年に新時代の天才として注目されたアコスタは、第2戦と第3戦で連続表彰台を獲得したものの、以後は成績に上下の波が生じ、シーズンを終えてスプリント4回・決勝5回という表彰台獲得に終わった。とはいえ、ルーキーでこの成績は上々、といっていいだろう。

KTMのエースとなるアコスタ(左)と新チャンピオンのマルティン(右)。ドゥカティファクトリーとマルティンの争いにアコスタが伏兵のように絡む展開は、きっと何度も見られるはずだ。写真MotoGP.com

 このKTM陣営がさらに高い成績を目指すためには、オリジナルな発想の現行カーボンフレームから、よりスタンダードに近いアルミへ変更するのがひょっとしたら得策なのではないか、と青木宣篤は提言する。

「KTMにはフロントタイヤが作用しにくいとうネガティブな部分があって、カーボンフレームを入れたことでそこが少し良くなったけれども、それでもまだ足らない。最近ではアコスタだけが頑張っていて、彼はブレーキが上手だからあそこまでバイクの性能を引き出せているけど、それでも頑張りすぎてフロントを切れ込ませて転んでしまう。他の選手たちは、その部分をリアタイヤでなんとかしようとするから、余計に辛いんでしょうね。

 他のKTMライダーがあれだけ苦戦しているのに、アコスタだけはほぼ毎戦トップテンに入っていて、しかも今や誰も彼のことをルーキーだとは1ミリも思っていないくらいの存在感じゃないですか。彼がファクトリーに上がることで、今後の開発は彼中心に進んでいくかもしれないけれども、とにかくフレームをなんとかしないと今よりも上を目指すのは難しいと思います。あの試みを始めた当初は面白かったけれども、あの鉄フレーム由来の剛性感は限界があるでしょうね。アルミに変えるならその順応や熟成にも時間がかかるから、変更するなら早いほうがいいと思います」

次ページ 浮上してきたヤマハと最下位に沈んだホンダの来季は?
1 2 3 4

関連書籍

MotoGP最速ライダーの肖像

プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

2025年はマルケス第2黄金期の到来か?