ウーマン村本が日本人に突きつけるもの〈前編〉

沖縄在住ノンフィクションライターの極私的村本論
渡瀬夏彦

 そもそもわたしが村本大輔という名の芸人の存在に関心を抱いた発端は、2017年12月18日のことである。白状すれば、彼がいったい何者なのか、それまでまるで知らなかった。

 動画投稿サイトで、前夜17日の「THE MANZAI」でのお笑いコンビ・ウーマンラッシュアワー(村本大輔&中川パラダイス)のネタが観られる、面白い、と複数の友人が教えてくれて、それで初めて知ったのだ。

 その5分余りの漫才において、「原発地帯」福井、小池百合子東京都知事、熊本の被災地などの話題と並んで、「沖縄の基地問題」が扱われていた。その「沖縄ネタ」の部分、二人の早口のやり取りを全文書き起こそう。

村本 現在、沖縄が抱えている問題は?

中川 米軍基地の辺野古移設問題。

村本 あとは?

中川 高江のヘリパッド問題。

村本 それらは沖縄だけの問題か?

中川 日本全体の問題。

村本 東京で行われるオリンピックは?

中川 日本全体が盛り上がる。

村本 沖縄の基地問題は?

中川 沖縄だけに押し付ける。

村本 楽しいことは?

中川 日本全体のことにして。

村本 面倒くさいことは?

中川 見て見ぬフリをする。

村本 在日米軍に払っている金額は?

中川 9465億円。

(※筆者注:数字の根拠は2015年のこの決定にありそうだ。➡http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/22009 )

村本 そういった予算をなんという?

中川 思いやり予算。

村本 アメリカに思いやりを持つ前に。

中川 沖縄に思いやりを持て~っ! 

 このオチのあとで村本は、相方の中川の手を思いきり強く握りつつ「ようこそ、沖縄へ~!」と叫ぶ。福井や東京や熊本などのそれぞれの土地に住みたいという人物を中川が演じ、「(その土地に)愛があったらいいけど、そう簡単には住ませない」と立ちはだかる人物を村本が演じて矢継ぎ早に中川に質問を浴びせ、間髪いれず中川が答えていく。そして最後は「ようこそ福井へ~」「ようこそ東京へ~」「ようこそ熊本へ~」で終わるのだ。

 彼は漫才の「ネタ」として、お笑いの語り口で、「沖縄の基地問題は、日本全体の問題のはずなのに、どうしてきちんと話題にしないのだ」という「素朴な疑問」をゴールデンタイムの番組で、全国の人々に向かって突き付けていた。5分余りの持ち時間のうち、「沖縄ネタ」の部分は、時間にして僅かに30秒ほど。

 たかがお笑い、されどお笑い、であった。

 様々のお笑い番組を知り尽くしたうえで、この芸に感じ入ったというわけではない。この「沖縄ネタ」を知り、突如この人に関心を持ったわたしが、1月3日の那覇市での独演会「大演説」を取材するまでに至り、そうしてしみじみ思った「たかがお笑い。されどお笑い」なのである。

 じつは1月3日の午後、村本大輔の記者会見へ向かう直前、わたしは一人の男と電話で話していた。

 元日に沖縄に到着した村本大輔のツイッターでの呼びかけに応じて、その夜のうちに辺野古の街で彼と酒を飲んだ男。そのフットワークの軽さ、身軽さに定評のあるラッパーであり、オスプレイ墜落現場に駆け付け、米軍や沖縄県警の規制線を突破し、大破した機体に肉迫して独自映像を配信するなど「インディペンデント・ジャーナリスト」としての役割にも高い評価が集まっている大袈裟太郎(おおげさ・たろう)だ。

 村本大輔はじつは、元日未明の「朝まで生テレビ」(テレビ朝日系)に出演し、それから間を置かずに沖縄へ向かった。「朝生」では、琉球王国時代に日清両属の時期があったことを聞きかじっていたために早とちりし、「沖縄は元々中国のものだった」などと事実誤認発言をして顰蹙を買ったりもしたようだ。

 大晦日の夜、わたしは沖縄島北部・大宜味村某所のテレビの映らない家にいて、友人と語り明かしてから辺野古の浜へ初日の出を拝みに出かけたので、「朝生」をまるで見ていない。だが、放送の一部を録画映像で確認したところ、村本大輔はそのような勘違い発言だけでなく、誰かを殺すことも殺されることも望まないという「非武装の理想」について語るなど、じつに興味深い重要な役割を演じていた。

 ともかく放送終了後、村本は沖縄へ向かった。彼が面白いのは、そのときにツイッターで、「これから辺野古で話せる人いますか」と問いかけたこと。つまり座り込みに参加しているような人たちと、村本は腹を割って話したくなったらしいのである。さらに面白いのは、この呼びかけに即座に反応して、その夜のうちに辺野古の街の一角で飲みながら語り合うことになった人たちがいたこと。

 つまりは村本大輔の呼びかけに応じた人物が、大袈裟太郎だ。かつて東京浅草で人力車を引いていた時期のあるラッパーだ(最新作PV「歩きつづけろ」はYouTubeで公開中)。

 2016年夏に高江のヘリパッド建設強行現場を訪れ、それから現在に至るまで高江や辺野古での基地建設強行に対する抗議・阻止行動にシンパシー寄せつつ関わり、今は沖縄に移住して名護市民となっている大袈裟。じつはわたしもいつしか座り込みの現場で彼と知り合い、幾度となく会話を交わしている仲だ。

 大袈裟太郎は、元日を高江の友人宅で過ごしていた。そして、村本大輔のツイッターでの「会って話せる人いますか」という呼びかけに気付き、「はい」と手を挙げ返信した。

 そこから双方の決断と行動は素早かった。

 村本大輔は、芸人の後輩二人とともに那覇から辺野古へ向かい、大袈裟太郎も友人二人とともに高江から辺野古へと向かい、見事に落ち合うことができたのである。

 翌1月2日の村本大輔のツイッターには、辺野古で飲みながら語り合った6人の集合写真が掲載され、こんな言葉が添えられていた。

《沖縄の辺野古の座り込みしている人達を「プロ市民だ」とレッテル貼る人たちがあまりに多いので逆に会いたいと思ってSNSでアポとってお酒飲んできた。プロ市民なんてひとりもいなくて辺野古高江をただ愛してる優しい人達だった》

大袈裟太郎氏(右下)らと飲みながら語る村本氏(写真/大袈裟太郎)

 1月3日の午後、村本大輔の記者会見に向かう直前、大袈裟太郎と電話で話した時、わたしの根掘り葉掘りの問いかけに、大袈裟はこう答えた。

「初対面で意気投合しましたよ。共通項はお互いに中卒で、知識に基礎が欠けていて、まだらな状態だったりするところ。一年ちょっと前のぼくも、本当に日当もらって(高江や辺野古で)座り込みしている人がいるのかと思ったまま沖縄に来ていたような状態でしたからね。でも村本さんは、いま凄い勢いで事実や知識を吸収していると思います。そして、玉石混淆の情報の中でどれを選ぶかというときに、一番信頼できるのは、現場で人の話を聞くことだと判断するようになったのだと思います」

 わたしの見るところ、大袈裟太郎も、沖縄に住んでからこの方、もの凄い勢いで、沖縄戦や基地被害の連続の沖縄の歴史、沖縄の人びとの抱える複雑な思いについて、学び吸収している。

 大袈裟は、電話での話をこう続けた。

「基地反対か賛成か、白と黒の間のグレーゾーンとかデリケートな部分に大事なことがたくさん詰まっていると思いますけど、なかなか語りにくい状況があります。村本さんと特に意気投合できたのは、簡単にレッテル貼ることが一番よくないという点でした。村本さんは原発の町の出身だから、補助金に頼って生活せざるを得なくなってしまう人びとの現実とかよく知っていて、基地問題も単純じゃないということをわかっているんだと思いました。

 それから一緒に辺野古に行ってくれたTさんが、住民運動なんかしたことない高江の人たちが見様見真似で初めて座り込みをするようになった経緯を詳しく話してくれたり、福島原発被災後に沖縄に移住してきたHさんがなぜ辺野古で抗議行動をするようになったのか、わかりやすくちゃんとした話をしてくれたのもよかったと思います」

 そんな話を大袈裟太郎から聞いた直後、指定された記者会見場へとわたしは入っていった。元日に村本大輔と会った大袈裟太郎と話せたおかげで、わたしもレッテル貼りなどを排して、先入観抜きで村本の話に耳を傾けよう、と自然体で会見に臨むことができていた。

 所属事務所からは、記者会見は30分程度の予定と言われていた。そうなると、地元メディア数社それぞれ一問ずつの質疑応答ができるかどうか、である。時間切れになると困るので、わたしは会見の最初に手を挙げ、立場はフリーランスだが某WEBサイトに記事を書く前提で会見に参加している、といった自己紹介のあと、ストレートな問いをぶつけさせてもらった。

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プロフィール

渡瀬夏彦
ノンフィクションライター。1959年埼玉県生まれ。高校3年のときに「与那国島サトウキビ刈り援農隊」に参加して以来、約28年間沖縄通いを続け、2006年から沖縄県民となる。『銀の夢 オグリキャップに賭けた人々』で講談社ノンフィクション賞とJRA馬事文化賞を受賞。他の著書に『修羅の華 辰吉丈一郎がゆく』(講談社)、共著書に『誰が日本を支配するのか!? 沖縄と国家統合』(マガジンハウス)など。基地問題からスポーツ(琉球ゴールデンキングス、琉球コラソン、FC琉球、高校野球、ボクシング等)、書評まで、幅広いジャンルで雑誌、新聞等にドキュメントやコラムを執筆。関心は、脱基地、脱原発から、沖縄文化、自然、芸術・芸能・音楽、スポーツまで多岐にわたり、Facebook やTwitterでも情報発信。現在、沖縄を舞台にした複数のノンフィクション作品を構想、執筆中。「沖縄戦・精神保健研究会」会員。

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