ウーマン村本が日本人に突きつけるもの〈前編〉

沖縄在住ノンフィクションライターの極私的村本論
渡瀬夏彦

——わたしは沖縄に引っ越してきて12年になる移住者ですが、常日頃ウチナーとヤマト(日本「本土」)の人の間にある意識のギャップは「温度差」というような生易しいものではないと感じています。深くて大きな溝がある。しかし一方では、その溝を埋める作業が少しでもできないか、と考えている人間でもあります。そのあたりをどう考えておられるか。村本さんの率直な実感からお聞きしたい。

 村本 これは、拡大解釈されるのが嫌なので、最初に言っておきます。僕は、沖縄の思いを届けたい、とか(の気持ちは)、全然ないんです。沖縄の人の思いは、やはり一人ひとり違うのでね。つまり、沖縄の人全員に納得してもらおうと思ったら、喋らないのが一番ということになる。みんなに納得してもらうことを目指すと、喋れなくなります。

 そんなふうに村本は語り始めた。

 自分は高校へは行ったものの、まったく勉強をしなくて中退した人間で、芸人になりたくて、たまたま漫才大会で優勝して、たまたまテレビに出るようになり、「ワイドなショー」などの番組にもテレビに出たい一心で出て時事問題についても喋るようになり、それからたまたまAbemaTV(テレビ朝日系のインターネット放送)にも出て、隣に座っていたジャーナリストの堀潤氏と知り合い、それからようやく世の中のことを学ぶようになった人間なのだ、と今日に至る経緯をありのままに語った。

 

村本 同じ番組に出て、番組が終わってから堀潤さんを追いかけていって「すみません、僕、世の中のこと全然知らないんで、教えてもらっていいですか」と尋ねたんです。そしたら堀潤さんが「いいですよ、こんど酒でも飲みながら話しましょう」と言ってくれて、携帯の番号を交換しました。35歳ぐらいになって、やっと世の中のことに耳を澄まし始めたような僕をバカ扱いせずに、相談に乗ってくれた。そして「村本さん、その考え、いいと思うよ」とほめてくれる。そしたら、この人からもっと話聞きたいと思うようになるし、自分でもニュースをもっと見ておこうという気にもなるわけですよ。沖縄のことも堀潤さんから教えてもらいました。

そうしてある日ニュースを見ていたら、高江とか辺野古の基地のゲート前で座り込んでいるおじいさんとかおばあさんとかが、機動隊員に腕や足掴まれて運ばれてる映像を目にしたわけです。「えーっ、なんでこんなことになってるの?」と思うわけですよ。そこで友だちとかに、「ねぇ、高江のニュース見た?」とか訊くわけです。でもみんな知らない、と言う。そこで僕は疑問に思うわけです。なんで基地って置いてるの? なんで沖縄に集中してるの? 今も、国内の米軍基地の7割が沖縄に集中してるんでしょ? みんな、自分のとこの話じゃなきゃ、どうでもいいの? 愛国心が好きな人たちが、どうして沖縄のことを喋らないの? って。

 僕は、朝生で、「沖縄は元々中国だった」と言って袋叩きにされました。

 琉球王国のときの沖縄が中国とも日本とも交流していた、その時代のことを聞きかじって、勘違いして発言してしまったわけです。最近、「日清両属」という言葉も教えてもらいましたけど。何が言いたいかというと、沖縄はいまアメリカという継母から意地悪されているように見える。それでいいの? ということです。

 最初にわたしが発した一つの質問に対して、村本は漫才のときと同じようなハイピッチの語り口で、一気に話した。このあとも話し続けた。

1月3日の記者会見で答える村本氏。予定時間を大幅にオーバーした熱のこもった会見だった(写真/渡瀬夏彦)

 まず抱いたのは、じつに正直な人だな、という印象だった。

 彼は己のコンプレックスを隠さないし、間違いを認めて反省している。「デマ拡散常習犯」のくせに訂正も謝罪もせず開き直る輩とは、人間の質において雲泥の差がある。信用できる人格だ、と直感的に思えたものである。

 期せずして、村本はこんな話もするのであった。

村本 僕は嫌われたり、しょっちゅうレッテル貼りされる芸人なので余計に思うんですけど、レッテル貼られてる人のレッテルを剥がして、ちゃんと中身を見てみたいんです。だから辺野古や高江で座り込んでる人と、お酒を飲みながら話したいと思ったわけです。だけどね、僕は人を見る目があるんです。めったなことでは人に騙されない自信がある。

 つまり、高江から辺野古へわざわざ出てきてくれた3人に対して、そのとき僕は、俺を騙したら承知せんぞ、という思いで一個一個の言葉を聞いているんです。そしたら、この人たちの話が面白いんですよ。一人ひとりの思いがちゃんと伝わってくる。

 例えば、なぜこの人たちの話が信用できるかというと、「座り込みを取り締まる警察官って、あなたたちを威嚇して最低でしょ」と僕が言うとします。そこで返ってくる言葉が面白かった。「なかにはそうじゃない人もいるんですよ。全部がそうだという目で警察官を見ないでください」と言ったんです。

 携帯の番号を交換した大袈裟太郎は僕にこう言いました。「村本さんが基地反対でも賛成でもどっちでもいいです。でも、デマとか暴力とかは許さないでください」と。「村本さんも一緒に反対してください」じゃないんですよ。

 彼は、こんなことも教えてくれました。ゲート前で座り込む人たちのイメージを悪くするような汚い言葉は使いたくないと思っているけど、あるおじいさんは米兵に向かって「ヤンキー・ゴー・ホーム」と言ってしまう。でも、このおじいさんは、戦争中に米兵から家族を殺されている。日本兵からも家族を殺されている。この人に「ヤンキー・ゴー・ホーム」と言うな、とは言えないでしょう、と大袈裟太郎は泣きました。そういう思いがゲート前に入り乱れているということを教えてくれました。

 つまり簡単にレッテル貼りするな、ということ。本質を見誤ってはいけない、ということです。

 高江というところは、東京から見たら遠すぎて、レッテル張りしやすいところ。でもね、アメリカや南極に比べたら近い。LCCで1万円出せば行ける。だったら近くに行って会って酒飲んで話聞けよ、と思うわけです。

 最初の話に戻りますけど、僕は基地賛成でも反対でもないけど、反対している人で泣いている人がいたら、「どうしたの? 何があったか教えてよ?」ぐらいは言いたい。沖縄を偉そうに語るつもりもないし、自分は座り込みもしないし、ズルいし、自分のズルさもさらけ出して、みんなのズルさとして共有したいな、という気持ちもあります。

 長くなってすみません。

 つまり、わたしの最初の質問に対して、彼はここまで27分間も語り続けたのである(当然ながらここに記した言葉はその抜粋である)。わたしの質問を彼自身が本質的な問いとしてとらえ、丁寧に答えようとしてくれた結果なのだと感じられ、非常にありがたく思った。その後、複数の記者からの質問にも答え、当初の30分の予定の記者会見は、結局50分余りにも及んでいた。

 彼は会見の中で、あの「THE MANZAI」の「沖縄ネタ」誕生秘話も語った。

 初めて基地問題のネタを披露したのは、ちょうど1年ぐらい前、当時国際通りにあった「よしもと」の劇場だったこと。そのとき、音響係の男性が舞台終了後にやってきて「ありがとう」と涙ぐんでいたこと。その音響マンに、「このネタは必ず全国放送でやるからね」と約束したこと。その事実をジャーナリストの堀潤氏に報告したとき、こんどは彼が涙を流して喜んでくれたこと。

 高江や辺野古の現場に足を運んでネタを考えたのかという問いには、「堀潤さんの話を鵜呑みにしてネタを作りました」と、これまた拍子抜けするぐらい正直に答えていた。

 またこういうネタを全国放送で披露するには勇気が必要だったかという問いには、「勇気というより、沖縄の人に失礼ではないか、沖縄の人を傷つけないか、という気持ちのほうが強かったです」と返答していた。

 彼は記者会見でこう強調していた。

「溝を埋められるかどうか、という話がありましたけど、僕は沖縄のすべての人の思いを伝えているわけではなくて、僕と関わった沖縄の人がひとりふたりいて、その人からたまたまバトンが来たから、それを受け取って喋っただけなんですよ。沖縄の中でも、辺野古、高江にもっと関心を持て!という声があると思うんですが、それは、たまたま、バトンが届いていない状態があるということなんだと思います」

 記者会見だけでも満腹になるほどに、村本大輔の話は示唆に富んでいた。

 彼は自らの欠点をも少しも隠さず率直に語るがゆえ、話に一層説得力が生まれているのだとも感じられた。

                             (後編につづく)

※後半は、いよいよ1月3日のソロ公演「大演説」に触れる。そこに仕掛けられた重大な問題提起について書きたい。

 

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プロフィール

渡瀬夏彦
ノンフィクションライター。1959年埼玉県生まれ。高校3年のときに「与那国島サトウキビ刈り援農隊」に参加して以来、約28年間沖縄通いを続け、2006年から沖縄県民となる。『銀の夢 オグリキャップに賭けた人々』で講談社ノンフィクション賞とJRA馬事文化賞を受賞。他の著書に『修羅の華 辰吉丈一郎がゆく』(講談社)、共著書に『誰が日本を支配するのか!? 沖縄と国家統合』(マガジンハウス)など。基地問題からスポーツ(琉球ゴールデンキングス、琉球コラソン、FC琉球、高校野球、ボクシング等)、書評まで、幅広いジャンルで雑誌、新聞等にドキュメントやコラムを執筆。関心は、脱基地、脱原発から、沖縄文化、自然、芸術・芸能・音楽、スポーツまで多岐にわたり、Facebook やTwitterでも情報発信。現在、沖縄を舞台にした複数のノンフィクション作品を構想、執筆中。「沖縄戦・精神保健研究会」会員。

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