食料という一番大事な安全保障が脅かされている

『タネはどうなる?!』著者 山田正彦元農水大臣インタビュー

山田正彦
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植物のタネを巡ってこのところ大きな動きが続いている。政府は今年4月に「主要農作物種子法」を廃止し、70年近く続いてきた公共種子制度を打ち切った。「種子法」とはコメ・麦・大豆の種子は国が管理して、農家が安定して作れるように各都道府県に育種技術の維持を義務付けした法律だ。

そして今度は、農作物の品種登録に関わる「種苗法」の原則を転換し、農家が代々続けてきた作物の自家増殖を禁止する動きを一気に加速させようとしている。今国会ではこうした動きに反対する野党から種子法復活法案が提出され、現在、衆議院で異例の単独審議が進められている。

そこで、菅内閣で農水相を担当し、2018年6月に『タネはどうなる?!─種子法廃止と種苗法運用で─』(サイゾー)を出版した元衆議院議員の山田正彦氏に、この問題を解説してもらった。山田氏は政治家になる前は牧場を経営し土の匂いを知る人物。このままでは日本の農業が多国籍企業に飲み込まれると危機感を募らせていた。

種子法廃止、種苗法改正、TPP批准…日本の農業が多国籍企業の侵略を受けそうになっていることを訴え続ける山田氏。食料の安定供給こそが軍事力よりも大事な安全保障なのだが、政府の方針はまったく逆を向いているという

 

 

――種子法廃止や種苗法の方針転換は、何が問題なのでしょうか。

 

 1952年にできた種子法は、コメ・麦・大豆の3つを国民にとって大切な食料と位置づけ、農家が安定して作れるように、各都道府県に種子の増殖、原種、原原種の育成を義務付けたものです。これが公共種子制度と言われるもので、税金で良いタネを守ってきたのです。

 一方、種苗法とは、植物(花や農作物など)の新しい品種を作った人が、その新品種を登録することで育成する権利を占有できるという法律です。1947年に制定され、1991年に全面的に改正されています。

 この種子法は今年の4月1日に廃止され、種苗法も国会でほとんど審議もされないまま廃止されようとしているのです。となると今後、困ったことが起きると予想されるのです。

 

――どんなことですか?

 

 タネが農家や国民の手から離れ、いずれは多国籍企業の所有になってしまう可能性があるということです。

 今の種子法では、税金で各都道府県に補助金が出ており、種子の管理、育成などが進められています。例えば、コメは各地の気候・風土などに合わせて、さまざまな種類が作られ、多様性を保っています。そのおかげで、冷害や害虫による被害でも、全種類がダメになることなく、安定的な供給が保たれているのです。

 その補助金が種子法廃止で打ち切られたら、各都道府県は管理・育成する品種を絞り込んだり、効率よく収穫できる品種の開発に力を入れる可能性が出てきます。なかには民間の種子企業に維持・管理を委託するようになるかもしれません。

 種子法で守られなかった野菜のタネを見ればわかりますが、40年ほど前までは国産100%で伝統的な固有種だったものが、いまでは90%は海外製。しかもその作物は、ちゃんとした作物になる種子が採れないF1(一代雑種)と呼ばれるタネに置き換わりました。そしてそのタネのほとんどを作っているのは、巨大な多国籍企業のモンサント、バイエル、ダウ・デュポン、シンジェンタなどなのです。

 

――多国籍企業がタネを握ると弊害が?

 

 まず、タネの価格の決定権が外国企業に移ります。昔は野菜のタネの価格は一粒1、2円だったものがいまは50円ぐらいに跳ね上がった。F1からタネを採っても同じ性質の作物ができないので、農家はタネの値段が高くとも毎年買わなくてはいけません。それは作物の価格にそのまま跳ね返ってきます。

 また、日本の遺伝子組み換え農作物の栽培認可件数は309種類で世界的に見ても突出して多い。モンサントなどが農薬を直接降り掛けても枯れない遺伝子組み換え作物を開発していますが、公共種子制度がなくなりタネが企業に握られると、こうした人体に影響があるかもしれない作物を日本人が食べさせられるようになるかも知れないのです。

 その予兆として、住友化学が開発した稲の「つくばSD」がすでに農薬と化学肥料のセットで売られています。これらは遺伝子組み換え米ではありませんがF1の種子で、他の組み合わせで栽培すると契約違反となります。これも企業にコントロールされているといえます。他にも日本モンサントの「とねのめぐみ」などがあります。

 

――日本にもタネを販売する化学メーカー、種苗メーカーがあります。

 

 多国籍企業は買収を繰り返して寡占化を急速に進めています。住友化学はモンサントと業務提携するなど関係を持っているためいつグループ化されるかわかりません。種苗大手の「サカタのタネ」にしても株式を公開しているので、いつかモンサントに買収されてしまうかもしれません。タキイ種苗は非上場なので、買収は難しいでしょうが。

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プロフィール

山田正彦

1942年、長崎県五島市生まれ。弁護士、元農水大臣。1969年に司法試験に合格するも法曹の道には進まず、故郷に戻って牧場を開く。オイルショックで牧場経営を断念後、弁護士となり、4度目の挑戦で衆議院議員に当選。2010年には農林水産大臣に就任。2012年の衆院選、2013年の参院選に落選後は、TPP批准阻止、種子法廃止反対の立場で精力的に活動中。

 
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