2024年シーズンのチャンピオン争いは、バルセロナ-カタルーニャサーキットで開催された最終戦ソリダリティGPの日曜決勝レースまでもつれ込む緊張感に充ちた戦いになった。ちなみに、今回の最終戦は、11月上旬にバレンシア地方を襲った甚大な水害のために急遽バルセロナへ会場を差し替えたという経緯があり、そのために「連帯・絆」を意味するSolidarityが大会名称に採用されている。
レースが始まる前の段階で、ランキング首位のホルヘ・マルティンは2番手の“ペコ”ことフランチェスコ・バニャイアに対して24点差をつけていた。土曜のスプリントでマルティンがバニャイアよりも2ポイント多く稼げば、日曜の決勝を待たずにタイトルが確定する、という圧倒的に優位な状況だったが、このスプリントでバニャイアはポールポジションからスタートして終始先頭を走行し続け、トップでゴール。マルティンは3位で終わったため、最終決戦は日曜の決勝レースに持ち越されることになった。
その決勝レースでも、バニャイアは一貫してトップの座を維持し続けて優勝し、土日ダブルウィンを達成。タイトル防衛こそならなかったものの、最後の最後まで2年連続チャンピオンの意地を見せつけた恰好だ。一方のマルティンは、このレースでも高いレベルで安定した走行を続け、無理をせずに3位でゴールして悲願のタイトルを獲得した。
ちなみに、2位には今年からドゥカティ陣営に移籍し、サテライトチームで戦うマルク・マルケスが入った。マルケスはドゥカティ初年度ながらスプリントで1回、決勝レースで3回の優勝を果たし(優勝を含む表彰台獲得はスプリント・決勝ともに各10回)、最終的な年間ランキングは新チャンピオンのマルティン、王座から陥落したバニャイアに次ぎ、年間総合3位に入っている。
この3名が揃って表彰台に登壇した最終戦ソリダリティGPの決勝レースは、ライダーたちのパワーバランスという意味でも、象徴的で予言的な結果だったといえるだろう。ドゥカティのファクトリーマシンとはいえ、サテライトチーム体制でチャンピオンになったマルティン、王座から陥落こそしたもののファクトリーのエースに恥じない走りを最後まで披露したバニャイア。そして初めてのドゥカティ、しかも型落ちの2023年仕様ながら2戦に1回の割合で表彰台に上がってランキング3位となったマルケス。2025年もこの3名を中心にシーズンが動いていくことは確実だろう。
今年20戦19勝のドゥカティは来年さらに強くなる?
2024年全体の趨勢を見渡すと、2023年以上にドゥカティが圧倒的な強さを誇示したシーズンだったことはまちがいない。ドゥカティは全20戦中19勝、しかも15戦で表彰台独占を果たしている。来年のファクトリーチームは、バニャイアにマルケスが合流するため、ここ数年の優勢はさらに強固なものになることが予想される。
ファクトリーライダーの座をマルケスと競いながら、結局自分が選ばれることはなかったマルティンは、その意趣返しとばかりにチャンピオンナンバーを奪い取る形でアプリリアファクトリーへ移籍する。ファクトリーチームに在籍しないライダーが王座を獲得するのはバレンティーノ・ロッシ(Nastro Azzuro Honda/2001)以来だが、その年間総合優勝を達成した選手がチャンピオンナンバーを持って別メーカーへ移籍するのも、ロッシ(2003/2004、ホンダ/ヤマハ)以来の出来事だ。
そのアプリリアファクトリーチームでマルティンが果たしてどれくらいのパフォーマンスを発揮できるのか、ということが2025年シーズンの大きな注目点のひとつだ。
アプリリアの2024年の成績は1戦で優勝(第3戦アメリカズGP:M・ビニャーレス)、コンストラクターズランキングではドゥカティ(722)とKTM(327)に続き、302ポイントの3番手に甘んじている。その下はヤマハが124、ホンダが75というポイント数なので、メーカー勢力構図でドゥカティがぬきんでて突出していることがよくわかる。それをKTMとアプリリアが追いかけ、さらに大きく引き離されたところに日本の2メーカーがいる、というのが現在の状態だ。
プロフィール
西村章(にしむら あきら)
1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。