
ショパン国際ピアノコンクールのセミファイナル(3次予選)では、牛田智大、桑原志織、進藤実優がすばらしい演奏をホールに響かせた。結果は桑原志織と進藤実優が本選へ。前回大会と異なる採点方式の影響は? ピアニスト・文筆家である青柳いづみこが現地ワルシャワで、ファイナリスト11名の3次予選の演奏などをリポートする。
注目のピアニストが3次予選で敗退

10月14日から16日に行われた3次予選では、20名がソナタ(作品35もしくは58)、マズルカ(指定の作品番号を1セット)などを演奏し、内11名が本選に駒を進めた。
その中で、日本期待の牛田智大が、ほぼ完璧な演奏を繰り広げながら落選するというショッキングな出来事があった。
今回の審査は、前回とは採点方法が異なっている。前回までは Yes/No 方式と 25 点満点の採点を併用しており、Yes/No 方式を優先させていた。今回は点数制に絞り、極端な評点は「算術的に調整」するとのこと。各ラウンドの点数も少し加算される。例えば本選出場者の決定は 1 次が 10%、2 次が20%、 3 次が 70%の比重で累積スコアを出して比較するとのこと。3次予選の比重が大きいものの、前段階の採点も反映されるため、より安定性が求められることになる。このシステムはあまりに複雑で、結果に衝撃を受けた審査員も複数いる。採点表は全審査が終わるまで公表されないので、詳しくはそれを待つしかないが、 牛田の場合、この改変が影響した可能性もある。

2023 年のピリオド楽器のためのショパン・コンクール優勝者のエリック・グオ (Eric Guo)も 3 次予選で敗退となった。彼は、線を微妙にずらして各声部を際立たせるなど、フォルテピアノ奏者特有のスタイルを取り入れたため、左右の手をずらすことを嫌うモダンの審査員たちには評価されなかったのだろうか。

韓国のLee 兄弟は、兄のイ・ヒョク(Hyuk Lee)が前回のファイナリストということもあり、2005年以来の兄弟同時入賞が期待されたが、揃って落選。16歳という年齢で注目された中国のウー・イーファン(Yifan Wu)とリュー・ティエンヤオ(Tianyao Lyu)は、リューのみが本選に進出した。
国別内訳は中国 3 名、アメリカ 2 名、日本 2 名、ポーランド 1 名、カナダ 1 名、ジョージア 1 名、マレーシア 1 名。使用楽器は、スタインウェイ 6 名、シゲルカワイ 3 名、ファツィオリ 2 名となっている。
プロフィール

(あおやぎ いづみこ)
1950年、東京都生まれ。ピアニスト・文筆家。フランス国立マルセイユ音楽院卒業、東京藝術大学博士課程修了。1990年、文化庁芸術祭賞、1999年『翼のはえた指』で吉田秀和賞受賞。日本ショパン協会理事、日本演奏連盟理事、大阪音楽大学名誉教授。著書に『ショパン・コンクール─最高峰の舞台を読み解く』(中公新書)『ショパン・コンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち 』(集英社新書)『サティとドビュッシー: 先駆者はどちらか』(春秋社)など多数。